井上 ひさし
おとったん、ありがとありました。
小説ではなく戯曲ですが、セリフが全て広島弁なので広島弁に慣れない内は読むのに苦労します。薄い本なので広島弁に慣れる前に読み終えてしまうかもしれません。しかし、ゆっくりと、セリフ一つ一つを味わい、情景を想像しながら読むのがふさわしい作品です。
原爆投下から3年後の広島が舞台。一人だけ生き残った負い目から幸せになることを否定した娘と、そんな娘を思いやる父親。しかし父親はすでにこの世の人ではない。
「父と暮せば」の物語は、父娘二人の会話だけで話が進んでいきます。
こうの史代の「夕凪の街 桜の国」の「夕凪の街」と同じ香りのする話です。どちらの主人公も、生き延びたことを幸運と考えずに、負い目と考えてしまいます。
「夕凪の街」は原爆投下から10年後の広島が舞台。主人公は生き延びて、生きていることに負い目を感じながらも10年が経ち、とまどいながらも幸せになろうとする直前に亡くなります。そして物語の大きな流れは「桜の国」につながります。
「父と暮せば」も「夕凪の街 桜の国」も、共に語られるのは、「伝える」そして「伝わる」ということ。伝える内容は異なれど、世代を越えて伝わることについての物語なのです。
思いよどこまでも届け。
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