ディアスポラ

目眩がするほど感動的な小説です。
といっても、ここでいう感動というのは、この本のオビにも書かれているように、SFというジャンルだけが与えてくれる種類の感動なので、感動的なお話が読みたいからといって、この本を読むのはちょっと注意が必要。
巻末に用語解説があるものの、その用語解説でさえ、それ相応の知識がないと読んでもさっぱり理解できない上に、本文中にも相応の知識の必要な用語が容赦なく登場します。しかし、あとがきにも書かれているように、わからない部分はばんばん読み飛ばしていって、そう、わからない部分を読み飛ばしていっても、充分に面白い話。もっとも、話に着いていくのに必死でしたが。
あちらこちらでちりばめられている数学的イメージは、読んでいる最中、はたして正しくイメージ出来ているのかと不安にもなったのだけれども、読み終えた後で、板倉さんによる解説を見てみると、概ね合っていたので一安心といったところなのですが、あくまでイメージ出来た部分に限ってのことであって、どんな状態なのか想像すら出来ない部分もたくさんありましたよ。自分の頭の悪さに涙が出そうなくらい。
完全な長編というよりも、個々の話がある程度独立している連作長編形式だったので読み飛ばしてしまっても構わない部分が多々あり、助かりました。
話としてはやはり「ワンの絨毯」が秀逸。読んでいて鳥肌が立ちましたよ。この話だけ、独立した短編版があるのですが、先に読んでおかなくてよかったと思いました。
物語内の時間は、最初は緩やかに流れていくのだけれども、徐々に加速しだし、最後はとんでもない時空間の彼方へとたどり着きます。結末の読後感は川又千秋の「宇宙船∞号の冒険」に近い感じかな。個人的にはイーガンが最後に見せた結論はあまり好きではないのだけれども(同様に「宇宙船∞号の冒険」もあまり好きではない)、しかし好き嫌いは別として凄い結末には違いありません。
果たしてどのくらい理解できていたのかわかりませんが、それでも面白く、SF的感動に満ちあふれた本でした。