啓示空間

考古学者、暗殺者、ラム・シップの船員の三つの視点から語られるこの物語、なんといってもラム・シップのパートが一番面白い。
船長は生体と機械が浸食融合してしまう「融合疫」に侵されてしまったために絶対零度で凍らされている状態。そのため「三人委員」によって船の航行運営は行われている状態。三人委員の一人、サジャキは船長を助けるために執念を燃やす男、なんとこの船はここ数十年、船長を助けるためにのみ行動しているらしい。
二人目のイリアは軍事部門担当であり、このパートの主人公。サジャキに不信感を抱いている上に、他の船員の知らない船の秘密をいくつか知っているらしい。おまけにこの船には使い方さえわからない地獄級とランクされるとんでもない兵器が搭載されている。三人目のヘガジはサジャキと同様、身体の大部分を機械に置き換えてしまっているウルトラ族なのだが、ヘガジは生体部分がほとんど無い状態まで機械化しており同じウルトラ族の中でも一目おかれている。
そしてこの船の船員は船長も含めてたったの七名。しかしそのうち一人は、話の冒頭で発狂したためにイリアによって殺されてしまう。そしてイリアはその死を事故死に見せかけるように偽装工作をほどこし、他の船員を騙そうとする。
何か事件よ起これといわんばかりのシチュエーションである。まあこれでラム・シップのパートでは何も事件が起こらなかったとしたら、それはそれでものすごく驚いただろうけども…
三人委員の中にも力関係があり、サジャキが一番の権力を持っている。二番目がイリアらしい。話が進むと、身体のほとんどを機械化していることと口絵のイメージもあってそれなりの強さがあると思われたヘガジは意外と権力も力も知能もないことがわかってくる。
三つのパートが合わさり、登場人物が勢揃いした後でも、ヘガジの扱いは最下位だ。最初は強かったけれども最後は最弱になってしまったドラゴンボールのヤムチャを彷彿させるキャラクターである。
それにしても長い話。三つのパートのうち、二つが合わさりようやく話の先行きが見え始めてくるのが350ページほど過ぎてから。400ページの小説ならばクライマックスまっただ中である。
同じく、400ページの話ならば、残り100ページぐらいの話の展開と思われる部分がこの本の場合、残り350ページ。それでも退屈させないのだから、凄いんだか凄くないんだか…
全編シリアスな話ではあるけれども、あちらこちらに笑えるシチュエーションがあってなかなか楽しい。とくに考古学者がようやく他のパートの人物と一緒になる場面なんて大爆笑。