都筑道夫少年小説コレクション（5）未来学園

今月発売の「GIALLO No22」は都筑道夫の三回忌追悼特集。途中で中断したままの未発表原稿が見つかったそうで、それが収録されております。ひょっとしたら「退職刑事シリーズ」の長編になったかも知れないものだそうです。
それ以外にリスペクト短編競作ということで法月倫太郎がクォート・ギャロンのパスティーシュを書いていますが、もともとカート・キャノンをパスティーシュしたものがクォート・ギャロンなのだから、これはパスティーシュのパスティーシュになるのだろうけど、単にカート・キャノンのパスティーシュを都筑道夫に対抗して書き上げただけじゃないかとも思えてしまいます。そのあたりのひねくれ具合が法月倫太郎らしいといえばらしいのですが。

都筑道夫少年小説コレクション５

都筑道夫著 / 日下三蔵編

巻頭の「未来学園」がなんといっても面白い。双子の姉弟を主人公に未来のとある学校を舞台にした全12話+番外編の連作短編で、毎回毎回いろいろな事件が起こる。最初の方の事件はたわいもないものばかりなのだが、次第に事件そのものよりも話の展開が奇妙な方向に進んでいく。
姉弟の前に手に水掻きのある男が現れる。姉弟はその男が宇宙人ではないかと思うのだけれども、先生の方は海底都市ように改造された男が脱走してきたのだろうと言う。いつの間にか男は消え去り、結局真相はわからないまま。という話はまだまともな方で、頭が二つある犬の話になると内容そのものが少年向けのレベルを越えた展開をする。
二つの頭の犬の真相はすぐに解かれ、その後どうなるかというと読んだ本の話に移るのだ。探検ロケットが事故に遭い、隊長と部下そして科学者だけが生き残る。しかし帰りの燃料・食料を考えると二人だけしか助からない。隊長はロケット操縦に必要で、科学者は事故のせいで身体が弱っていて帰り着くまで持ちそうも無い状態。しかし科学者の知識がなければ探検の価値が半減してしまう。科学者は自分が犠牲になろうと言い、部下もここで死にたくはないと言うのだけれども、隊長は部下を殺して科学者と二人で地球に帰ることにしてしまう。そして科学者は帰り着いて直に死んでしまい、隊長は殺人の罪で裁判にかけられてしまう。
なんとこの後の展開は、隊長のとった行動の是非の論議になってしまうのだ。そしてそれが二つの頭の犬の真相としっかり結びついているところが凄い。
SFとは名ばかりで、まるで倫理の教科書を読んでいるような感覚。子供向けといっても内容に全く手を抜いていないのが素晴らしい。
そのほかにも、未来の話なのに何故か不幸の手紙ならぬ幸運の手紙が登場して、それが嘘である理由と何故信じてしまうのかという部分に関しての考察の話など、「未来学園」という題名からは想像できない内容ばかり。
脱帽いたしましたよ。