小指の先の天使

スタニスワフ・レムの訃報を知ってちょっとショックです。非常にバランスのとれたというか、あらゆる方面で秀でた完璧な作家だったと思います。
さて、レムに匹敵する思索力の持ち主といえば、グレッグ・イーガンがそうなんじゃないかと思うのですが、日本に目を向けてみると、よくディックと比較される神林長平もアプローチの仕方がレムと同じなんじゃないかと思っているのです。

小指の先の天使

神林長平著

短編集だと思っていたのですが、もちろん短編集に変わりはないのだけれども設定に緩やかなつながりを持つ連作短編集でした。バラエティ豊かな短編集だと思っていたのでちょっとがっかり。
冒頭の「抱いて熱く」が1981年、「意識は蒸発する」が2002年と20年に渡って書き続けられてきた本なんですが、解説でフォローされてはいるものの初出が書かれていないのはちょっと不親切な気もします。もっとも古さとか作風の変化みたいなものはほとんど気にならないので、そんなこと気にせず読めということかも知れません。
中身はいつもの仮想と現実という神林世界、猫もしっかりと登場します。好きな人は好きなんだろうけれども、正直この手の話はもういいよと言いたくもなります。個人的にはちょっと飽きてしまっているのです。
まあそれはともかく「父の樹」では「狐と踊れ」と同じようなモチーフが登場したりして＜原点にして到達点＞というコピーは確かにそのとおり、この本だけ読めば神林長平のある一面はまるごとカバー出来てしまいます。逆を言えば他の本を読んでいるならば、この本を読む必要はないってことになってしまいますが……。だからといって神林長平初心者向けかというとそうでもないのが辛いところです。
とぼけた味わいのある「小指の先の天使」が一番楽しめたかな。