セントラル・パーク事件

宇宙葬で文字通り実際に宇宙葬をビジネスとして行っている会社に関して書いたのだけれども、今度は土地の話。土地といっても地球上の土地ではなく月の土地であります。まあ確かに月の土地を売っている会社があるらしいことは何となく耳にしていたのだけれども、サイトまで存在しているとは知りませんでした。もちろん偶然見つけたんですが。ルナエンバシージャパンがそれです。
いやもう実に楽しい。って月だけではなく火星や金星の土地まで売っているんだから凄い。ま、さすがに木星とか土星とかは売らないだろうな。何でも売ってしまう商売根性が素敵だ。
思わずフランス鍵の秘密の主人公ジョニーが相棒のサムの筋肉美を見せつけて、あなたもこんなマッチョになれるというハウツー本を売りつける商売をしていたことを思い出しましたよ。基本的に同じなんだよね。
で、「セントラル・パーク事件」のビンゴとハンサムのコンビもやってることは同様なんです。観光客に対して写真を勝手に撮って、住所の書いたカードを渡し、25セントを送ってきたら写真を現像して送り返すという商売をしているんです。
ライスがミステリの楽しさを教えてくれたってことは前にも書いたけれど、やっぱりライスはいいねえ。
ライスの小説にはユーモアが満ちていて、同時に悲しみも満ちている。今回のお話は、ビンゴとハンサムのコンビがうまく立ち回って25万ドルをせしめようとするけれども思いも寄らないトラブルに巻き込まれる話。しかし悲しいことにビンゴとハンサムの二人が25万ドルを手に入れることが出来ないのが読者にはわかりきっている。トラブルは万事めでたく解決しても、彼らが大もうけする事なんかないのである。そんな話をライスが書くわけないからだ。
ビンゴたちはいつだって金に困っている。話が進むたびにどんどん金に困っていく。フイルムを使い切って新たな写真を撮ることが出来なくなり、印画紙が切れ、現像液も無くなり、カメラを質に入れなくてはいけなくなってしまう。彼らが住んでいるアパートの大家も家賃だけが唯一の収入なのに、店子は家賃を滞納している。店子は家賃を待ってくれと頼むのだけれども、大家が払わなければいけないガス代は待ってくれない。
大家の娘だって母親が再婚したら出ていかなければいけないから、その日の為に一生懸命働いて生きている。事件の焦点となるピジョン氏は七年間行方をくらましていたのだけれども、その行動には悲しみが存在している。
ユーモアを取り除いたら、なんと悲しみに満ちたお話なんだろう。でも、このお話はユーモアに満ちている。だから読んでいて楽しいし、最後に暖かさとやさしさに包まれてた余韻を残してくれる。