機本 伸司著
「宇宙は”無”から生まれた」と、彼は言った。「すると人間にも作れるんですか? 無なら、そこら中にある───」
この文章が全てを物語っています。もう、この文章を読んで鳥肌が立ちましたよ。
「たとえばある人が試験管の中に”無”を入れて……いや、そこに在るものを抜き取って”無”にしたとして、それから宇宙を作ってしまうことも可能なんですか。”無”から生まれたというのなら、そこから宇宙が生まれてもおかしくないわけでしょう」
いやもう、なんで今までこんな当たり前のことに疑問を持たなかったんだろうか。
中学か高校のころに、こんな疑問を抱いたとしたら絶対に物理の道を歩んでいたよ、例えその結果が異端の道であったとしても。ああ、オレは人生の選択肢を思いっきり間違えてしまった、何故こんなことに気付かなかったのだと猛烈に後悔しているよ……、ともう少しで思ってしまいそうになりました。
宇宙創造と個人レベルでの存在意義、巨大加速器と小さな藁葺きの農家。ミクロからマクロへ、マクロからミクロへと行き来しながら物語は突き進んでいきます。
「宇宙を作ることは可能なのか」と言うことよりも大切な問題がある。詰まるところはそこに行き着くわけで、明確な答えは書かれていないのだけれども、しかし答えはそこにしっかりと存在するこの結末。この結末を、もの足りないとみるか、うまく誤魔化したと感じるか、それとも満足するか。
いや、私は満足いたしました。
参考図書に「世界のSF文学・総解説」があるのにちょっと笑ったというか、感心しました。
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