ジャック・ヴァンス作 / 日夏 響訳
このブログでの本の感想に関しては、基本的に新刊で入手可能なものだけに限定しているのですが、偶には例外も発生します。
「キャンプ・コンセントレーション」なんかがそうなんですが、その後、こいつの元となった「キャンプ収容」が某所で公開されたり、青心社文庫の「赤い霧のローレライ」について書いたら青心社SFシリーズの復刊が始まったりと、このブログで書いたら願いが叶うのではないだろかなどと思ったりもしたくもなるような事が起こりました。
まあ全くの偶然、気のせいなんですけど。
しかし、ジャック・ヴァンスの「竜を駆る種族」が復刊されることだし、何もしないよりかはましかと思い、「終末期の赤い地球」を再読してみました。
ジーン・ウルフが「世界で最高の本」だといい、ジョージ・R・R・マーティンもヴァンスのような話を書きたくて「魔獣買います」を書いたし、ダン・シモンズが「ハイペリオン」の中で「終末の地球」という詩集の形で登場させていたり、ロールプレイングゲーム「D&D」の魔法システムにも影響を与えたといわれ、四年くらい前までは新刊で入手可能だった本です。
なんだみんなヴァンスが好きなんじゃないかといいたくもなるんですが、長編の翻訳は止まっています。
さて、再読してみて思ったのは、やはり話としては面白くないということ。奇妙な風習といったヴァンスの特徴も存在はしていますが、あまり有効に使われていません。しかしそれでも文章から立ち上ってくる色彩は色鮮やかです。
「魔術師マジリアン」は魔術師マジリアンが謎の娘ツサインを捕まえようとするお話。ファンダールの渦旋活殺の術、フェローヤンの二次金縛り、無敵火炎放射術、活力持続呪法、球状排撃術と五つの魔法を覚えてツサインの後を追いかけるのですが、ツサインの方が一枚上手でしたという結末。ツサインの策略にはまってマジリアンはあえなく死亡。ツサインはマジリアンにとらえられていたトゥーリャンによって作り出された人造人間。トゥーリャンを助け出すためにマジリアンと対決をしたのですが、助けた後で息を引き取ります。
「ミール城のトゥーリャン」はそれよりも過去の話。トゥーリャンは地球から遠く離れたエムブリオンに住む大魔術師パンドリュームに弟子入りして人造人間生成の秘技を教えてもらおうとする。パンドリュームによって作られたものの脳の損傷を受け、あらゆる物が醜く感じられてしまうツサイスが登場。トゥーリャンはツサイスそっくりの人造人間ツサインを作り、ツサイスを諭して再び地球に帰ります。
一方、ツサイスは「怒れる女ツサイス」で、地球に来れば美しいものに出会えるというツサインの言葉を頼りに、ひとり地球にやって来ます。そこで無宿者ライアーンと戦ったりした後、魔女によって醜い姿に変えられてしまったエタールの復讐の手伝いをし、ご褒美として脳の損傷をなおしてもらってめでたしめでたし。
「無宿者ライアーン」は透明になれる魔法のリングを拾ったことから魔女リースの願いを聞き入れ、眼球コレクターかつ情無用のチャンに奪われた黄金のつづれ織りを取り戻そうとするお話。しかしチャンの方が一枚上手で目玉と引き替えに二本のより糸だけ手に入れます。
「夢の冒険者ウラン・ドール」はウラン・ドールが叔父のカンディーヴの願いによって伝説の国アムプリダトピアにあるという大魔術師ロゴル・ドームドンフォルスの魔法を探すお話。アムプリダトピアでは緑色の服を来たパンジウ教徒と灰色の服を着たカズダル教徒が互いに争っているのですが、ロゴル・ドームドンフォルスの仕掛けた魔法によってお互いの姿が見えず相手を幽霊だと思っている。しかしウラン・ドールによってその魔法が解かれ、戦争が勃発。そんな事態を後目にウラン・ドールはかわいい彼女を手に入れ故郷に帰ります。
とまあ、SFというよりも純粋なファンタジーなのですが最後の「スフェールの求道者ガイアル」は知識を求める青年ガイアルのお話。彼はあらゆる知識が収められているという人間博物館へと旅立ちます。しかし公有地に足を踏み入れてはならないという奇妙な風習のある街で、公有地にうっかり足を踏み入れてしまい、逮捕されてしまいます。
そしてガイアルは、爪をはがし、切り刻んだそれを首筋に縫い合わされ、一族郎党に汚物がかけられ、失われた書を見つけるために鉛の靴をはいて湖の底を一マイル歩かされるというなんともヴァンスらしさあふれる罰を受けさせられそうになるのですが、情状酌量され、街で一番の美女を選ぶという刑罰を受けさせられます。もちろん刑罰には続きがあり、選んだ娘とともに人間博物館という場所へ行かされるのです。どうやら人身御供のようです。どこが情状酌量なのかよくわかりません。はたして人間博物館は生け贄を求める場所なのか、知識の宝庫なのか……。
終末を迎えようとする遠い未来の地球。そんな時代、知識を得たところでなんになろうかとも思うのですが、最後のこのお話も、人間博物館の館主となったガイアルが、「さて、これからどうしようか」とつぶやいたところで幕が閉じます。
なんて書いていたら……
話さないと伝わらない日記さんのところの、驚愕ふたたびで、<未来の文学>第III期のラインナップに、
ジャック・ヴァンス「奇跡なすものたち」とあるではないですか。
やったあ!
「キャンプ・コンセントレーション」なんかがそうなんですが、その後、こいつの元となった「キャンプ収容」が某所で公開されたり、青心社文庫の「赤い霧のローレライ」について書いたら青心社SFシリーズの復刊が始まったりと、このブログで書いたら願いが叶うのではないだろかなどと思ったりもしたくもなるような事が起こりました。
まあ全くの偶然、気のせいなんですけど。
しかし、ジャック・ヴァンスの「竜を駆る種族」が復刊されることだし、何もしないよりかはましかと思い、「終末期の赤い地球」を再読してみました。
ジーン・ウルフが「世界で最高の本」だといい、ジョージ・R・R・マーティンもヴァンスのような話を書きたくて「魔獣買います」を書いたし、ダン・シモンズが「ハイペリオン」の中で「終末の地球」という詩集の形で登場させていたり、ロールプレイングゲーム「D&D」の魔法システムにも影響を与えたといわれ、四年くらい前までは新刊で入手可能だった本です。
なんだみんなヴァンスが好きなんじゃないかといいたくもなるんですが、長編の翻訳は止まっています。
さて、再読してみて思ったのは、やはり話としては面白くないということ。奇妙な風習といったヴァンスの特徴も存在はしていますが、あまり有効に使われていません。しかしそれでも文章から立ち上ってくる色彩は色鮮やかです。
「魔術師マジリアン」は魔術師マジリアンが謎の娘ツサインを捕まえようとするお話。ファンダールの渦旋活殺の術、フェローヤンの二次金縛り、無敵火炎放射術、活力持続呪法、球状排撃術と五つの魔法を覚えてツサインの後を追いかけるのですが、ツサインの方が一枚上手でしたという結末。ツサインの策略にはまってマジリアンはあえなく死亡。ツサインはマジリアンにとらえられていたトゥーリャンによって作り出された人造人間。トゥーリャンを助け出すためにマジリアンと対決をしたのですが、助けた後で息を引き取ります。
「ミール城のトゥーリャン」はそれよりも過去の話。トゥーリャンは地球から遠く離れたエムブリオンに住む大魔術師パンドリュームに弟子入りして人造人間生成の秘技を教えてもらおうとする。パンドリュームによって作られたものの脳の損傷を受け、あらゆる物が醜く感じられてしまうツサイスが登場。トゥーリャンはツサイスそっくりの人造人間ツサインを作り、ツサイスを諭して再び地球に帰ります。
一方、ツサイスは「怒れる女ツサイス」で、地球に来れば美しいものに出会えるというツサインの言葉を頼りに、ひとり地球にやって来ます。そこで無宿者ライアーンと戦ったりした後、魔女によって醜い姿に変えられてしまったエタールの復讐の手伝いをし、ご褒美として脳の損傷をなおしてもらってめでたしめでたし。
「無宿者ライアーン」は透明になれる魔法のリングを拾ったことから魔女リースの願いを聞き入れ、眼球コレクターかつ情無用のチャンに奪われた黄金のつづれ織りを取り戻そうとするお話。しかしチャンの方が一枚上手で目玉と引き替えに二本のより糸だけ手に入れます。
「夢の冒険者ウラン・ドール」はウラン・ドールが叔父のカンディーヴの願いによって伝説の国アムプリダトピアにあるという大魔術師ロゴル・ドームドンフォルスの魔法を探すお話。アムプリダトピアでは緑色の服を来たパンジウ教徒と灰色の服を着たカズダル教徒が互いに争っているのですが、ロゴル・ドームドンフォルスの仕掛けた魔法によってお互いの姿が見えず相手を幽霊だと思っている。しかしウラン・ドールによってその魔法が解かれ、戦争が勃発。そんな事態を後目にウラン・ドールはかわいい彼女を手に入れ故郷に帰ります。
とまあ、SFというよりも純粋なファンタジーなのですが最後の「スフェールの求道者ガイアル」は知識を求める青年ガイアルのお話。彼はあらゆる知識が収められているという人間博物館へと旅立ちます。しかし公有地に足を踏み入れてはならないという奇妙な風習のある街で、公有地にうっかり足を踏み入れてしまい、逮捕されてしまいます。
そしてガイアルは、爪をはがし、切り刻んだそれを首筋に縫い合わされ、一族郎党に汚物がかけられ、失われた書を見つけるために鉛の靴をはいて湖の底を一マイル歩かされるというなんともヴァンスらしさあふれる罰を受けさせられそうになるのですが、情状酌量され、街で一番の美女を選ぶという刑罰を受けさせられます。もちろん刑罰には続きがあり、選んだ娘とともに人間博物館という場所へ行かされるのです。どうやら人身御供のようです。どこが情状酌量なのかよくわかりません。はたして人間博物館は生け贄を求める場所なのか、知識の宝庫なのか……。
終末を迎えようとする遠い未来の地球。そんな時代、知識を得たところでなんになろうかとも思うのですが、最後のこのお話も、人間博物館の館主となったガイアルが、「さて、これからどうしようか」とつぶやいたところで幕が閉じます。
なんて書いていたら……
話さないと伝わらない日記さんのところの、驚愕ふたたびで、<未来の文学>第III期のラインナップに、
ジャック・ヴァンス「奇跡なすものたち」とあるではないですか。
やったあ!
コメント
うむむ,これが「終末期の赤い地球」ですか。
さすが,キワモノ混在のQ-Tブックスという感じですが,なんや八方破れのようなすごい展開ですねえ。
それはともあれ,国書刊行会Ⅲ期!
すごいですねえ。
ヴァンス,スラディック,ディレーニイとも短編集なんでしょうねえ!
さらに,伊藤典夫氏のアンソロジー…。
いうことなしですなあ。
初期の作品ですのでお話のほうは身も蓋もないといったところですね。最初の話なんて主人公は返り討ちにあって死んでしまいますし。
国書刊行会は無事三期が決定して何よりですが、伊藤典夫氏は扶桑社のエリスンのアレを手がけているという話を耳にしたことがあります。そっちはどうなったんだろう。
あきらめちゃったからこっちを出すことにしたのかな。