ウィリアム・ベックフォード〔ほか〕著訳 / 東 雅夫編
文庫で千七百円という値段はさすがに躊躇してしまう値段である。それでいてページ数は六百九十五ページだからなおさらだ。もっともこれが倍のページ数だったらどうかといえば、やはり倍のページ数であったとしても躊躇してしまう。
と、いいながらもこの本には古川日出男の「アラビアの夜の種族」外伝である「サイプレス」収録されている。本来はオンライン書店bk1での購入者特典としてメール配信されたものであり、文庫化されたときにも収録されなかったので、まあ収録されなくって当たり前なんだけど、活字として読むことが出来るのは今のところこの本だけだ。
もっともこの本の目玉は古川日出男ではなくって、ジョージ・メレディスの「シャグパットの毛剃」。
内容をかいつまんで言えば、床屋が髪の毛を剃る。というだけの話なんだけどこれが想像以上に面白い。主人公は易者に床屋になれば出世する、と言われて床屋になるけど、いつまでたっても有名にならないので都会に出てきた青年シブライ。しかしあきらめかけたところに謎の老婆が現れ、シャグパットという男の毛を剃れば有名になれるとそそのかされ、さらにはこの老婆のいいなりになって婚約の契りも結んでしまう。
なんとも自分の欲望のまま、行き当たりばったりに生きているような主人公。しかし行き当たりばったりなのは主人公だけではなく、物語の進行も行き当たりばったり。主人公が、老婆が実際は美人だであることを知り、これなら美人バナヴァーの話も信じることが出来ると言えば、美人バナヴァーとはなんですと老婆に聞かれ、そこから突然美人バナヴァーの物語に入ってしまうのだ。いうなれば、注釈が物語の末尾ではなくシームレスに物語の途中に挿入されている状態、しかもその分量が長めの短編ほどある。もちろん本編との繋がりは全くなく、話が終われば何事もなかったごとく本編が始まる。
しかし、その脱線じたいも面白いんだから仕方ない。
で、肝心のシャグパットの毛剃となると、アクリスという剣を使わなければ剃ることが出来ず、そしてアクリスの剣を手に入れるためには三つのアイテムを手に入れなければいけないという、まるでロールプレイングゲームのごとき展開。しかし欲望に忠実な主人公のこと、そう簡単には手に入れることが出来ず、美人をみればすぐに虜になって罠にはまるし、王様とおだてられればその気になって、罠にはまる。
そしてようやく手に入れたアクリスの剣はなんと長さが一マイルもある代物。何かの冗談のような気もするがその長さが役に立つ出来事が起こったりする物だからよく考えられているよなあ、この話。
さて、いよいよ毛剃りの場面となるとたかが毛を剃るだけなのに、これが魔物の軍団を従えての大戦争となる。これに対抗するのは悪鬼や魔女王達。空中戦やら地獄に舞台を移したり、いやたかが毛を剃るためだけなのだけど、そこまで盛り上げるかと言いたくなるような怒濤の燃える展開。
そして戦いの結末は、「シャグパットの頭はてらてらと輝(ひか)った」で終わる。題名に嘘偽り無く、ただ単純に毛を剃るだけの話なのだ。もちろんご褒美的なエピローグは付くのだけれど。
十九世紀半ばにこんな面白い話が書かれていたとは。
と、いいながらもこの本には古川日出男の「アラビアの夜の種族」外伝である「サイプレス」収録されている。本来はオンライン書店bk1での購入者特典としてメール配信されたものであり、文庫化されたときにも収録されなかったので、まあ収録されなくって当たり前なんだけど、活字として読むことが出来るのは今のところこの本だけだ。
もっともこの本の目玉は古川日出男ではなくって、ジョージ・メレディスの「シャグパットの毛剃」。
内容をかいつまんで言えば、床屋が髪の毛を剃る。というだけの話なんだけどこれが想像以上に面白い。主人公は易者に床屋になれば出世する、と言われて床屋になるけど、いつまでたっても有名にならないので都会に出てきた青年シブライ。しかしあきらめかけたところに謎の老婆が現れ、シャグパットという男の毛を剃れば有名になれるとそそのかされ、さらにはこの老婆のいいなりになって婚約の契りも結んでしまう。
なんとも自分の欲望のまま、行き当たりばったりに生きているような主人公。しかし行き当たりばったりなのは主人公だけではなく、物語の進行も行き当たりばったり。主人公が、老婆が実際は美人だであることを知り、これなら美人バナヴァーの話も信じることが出来ると言えば、美人バナヴァーとはなんですと老婆に聞かれ、そこから突然美人バナヴァーの物語に入ってしまうのだ。いうなれば、注釈が物語の末尾ではなくシームレスに物語の途中に挿入されている状態、しかもその分量が長めの短編ほどある。もちろん本編との繋がりは全くなく、話が終われば何事もなかったごとく本編が始まる。
しかし、その脱線じたいも面白いんだから仕方ない。
で、肝心のシャグパットの毛剃となると、アクリスという剣を使わなければ剃ることが出来ず、そしてアクリスの剣を手に入れるためには三つのアイテムを手に入れなければいけないという、まるでロールプレイングゲームのごとき展開。しかし欲望に忠実な主人公のこと、そう簡単には手に入れることが出来ず、美人をみればすぐに虜になって罠にはまるし、王様とおだてられればその気になって、罠にはまる。
そしてようやく手に入れたアクリスの剣はなんと長さが一マイルもある代物。何かの冗談のような気もするがその長さが役に立つ出来事が起こったりする物だからよく考えられているよなあ、この話。
さて、いよいよ毛剃りの場面となるとたかが毛を剃るだけなのに、これが魔物の軍団を従えての大戦争となる。これに対抗するのは悪鬼や魔女王達。空中戦やら地獄に舞台を移したり、いやたかが毛を剃るためだけなのだけど、そこまで盛り上げるかと言いたくなるような怒濤の燃える展開。
そして戦いの結末は、「シャグパットの頭はてらてらと輝(ひか)った」で終わる。題名に嘘偽り無く、ただ単純に毛を剃るだけの話なのだ。もちろんご褒美的なエピローグは付くのだけれど。
十九世紀半ばにこんな面白い話が書かれていたとは。
コメント
すいません、上のコメント、誤って本名を登録してしまったので、お手数ですが消しておいてもらえますか。同じ内容のコメントを登録しておきます。失礼しました。
うわ、この本、欲しかったんですよね。一度、池袋のジュンク堂で見かけたんですが、仰る通り値段が高くて購入をあきらめたんですが、そんな面白そうな作品が載っているなら買っておけば良かったなあ。一期一会の機会を逃がしてはいけないという教訓ですね。
まあ、普通はおもしろいんだかおもしろくないんだかよくわからない本にこの値段は出せませんよねえ。しかも文庫本だし。
四百ページ以上あるこの「シャグパットの毛剃」が面白いという話を耳にしなかったなら私も買いはしませんでした。実際、出た当初は古川日出男しか眼中になかったのであきらめていましたし。