柳 広司〔著〕
うむむむ、これは扱っている題材が題材だけにミステリの部分が支えきれなくなっているような気がする。
かといって失敗作かといえば全然そうではなくって、ミステリである必要さえ無いんじゃなかろうかと思わせられてしまうのだ。
オッペンハイマーが書いた未発表の手記、それも別人物での視点による小説を翻訳したものだという設定といい、途中ではさまれるイルカ放送の話、さらには別人物の視点による黙示録の描写。ある意味破綻しているかのように思えるのだけれども、それらはただ一点、前代未聞の狂気の論理を補完するためにある。
ミステリとしてはいたって単純で地味な事件でありながらも、それを行わせた犯行動機はあまりにもとんでもない内容、しかし原爆という存在はそれすら成立させてしまうのだ。ホワイダニットとしては強烈すぎる。
作中内の視点人物であるイザドア・ラビは物語の最後で自らが解明した事の真相に耳を塞ぎ、これが新しい世界なのかと絶望する。しかしこれはオッペンハイマーが書いた物語であるという構造であり、自分自身を正統化しながらも自らを非難する物語になっているという二律背反で物語の幕は閉じる。
かといって失敗作かといえば全然そうではなくって、ミステリである必要さえ無いんじゃなかろうかと思わせられてしまうのだ。
オッペンハイマーが書いた未発表の手記、それも別人物での視点による小説を翻訳したものだという設定といい、途中ではさまれるイルカ放送の話、さらには別人物の視点による黙示録の描写。ある意味破綻しているかのように思えるのだけれども、それらはただ一点、前代未聞の狂気の論理を補完するためにある。
ミステリとしてはいたって単純で地味な事件でありながらも、それを行わせた犯行動機はあまりにもとんでもない内容、しかし原爆という存在はそれすら成立させてしまうのだ。ホワイダニットとしては強烈すぎる。
作中内の視点人物であるイザドア・ラビは物語の最後で自らが解明した事の真相に耳を塞ぎ、これが新しい世界なのかと絶望する。しかしこれはオッペンハイマーが書いた物語であるという構造であり、自分自身を正統化しながらも自らを非難する物語になっているという二律背反で物語の幕は閉じる。
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[本][ミステリー][日本現代][柳広司]新世界/柳広司(角川文庫)
新世界 作者: 柳広司 出版社/メーカー: 角川書店 メディア: 文庫 1945年8月、砂漠の町ロスアラモス。原爆を開発するために天才科学者が集められた町で、終戦を祝うパーティが盛大に催されていた。しかしその夜、一人の男が撲殺され死体として発見される。原爆の開発責任者、
柳広司「新世界」
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1945年8月、砂漠の町ロスアラモス。原爆を開発するために天才科学者が集められた町で、終戦を…