- 著 清水 玲子/
- 販売元/出版社 白泉社
- 発売日 2007-02-28
Amazon/Bk1/楽天ブックス
前巻が出たのが2003年の六月でしたからけっこう待たされました。もっとも一話完結なので間があいてもそれほど影響はないのですが、それにしてもまあこれだけ間があいてしまうと期待値も増大してしまうわけです。
物語の舞台となるのは2060年とやけに未来の日本。脳から視覚の記憶を取り出し、それを映像として見ることができる技術が開発され犯罪捜査のために用いられていた。被害者が生前見ていたものを調べることが出来れば、そこに犯人の姿が映っているかも知れないからだ。
で、主人公たちはこの機械、MRIスキャナを使って犯罪捜査を行うのだけれども、これが一筋縄ではいかない。というのはMRIスキャナの限界と制約という部分が良くできていて、視覚情報を取り出すことが出来たからといってもその情報は必ずしも正しいわけではなく、個人の主観というフィルターを経由しているため事実と全く違う映像が取り出されてしまうこともあるからだ。被害者が幻覚を見ていた場合、取り出されるのは幻覚のほうなのである。
そして主観を通してのぞき見るということは個人の「秘密」をのぞき見ることでもある。
前巻ではこの設定を駆使し、犯人側がこのMRIの限界を理解した上での犯罪が行われたので、非常にトリッキーな内容になっていたのだけど、今回はオーソドックスな使い方をしている。そこが物足りないといえば物足りないのだけれども、それ以上に引っかかるのが細部の詰めの甘さで、もう少しうまく処理できなかったのかなあ。
まあ、あらゆる犠牲をはらってでも秘密にしておきたかった事柄そのものについてはよく理解できるんだけど、この作者って、人間の体の中には血が流れていて、切れば血が流れ出すし、そして痛いということを忘れてしまう瞬間があるんじゃないのかと思ってしまう。脳を取り出された頭部とか、皮膚をはぎ取られた体、内臓を摘出された腹部、もしくは内臓が露出した人体などの描写があるのだけれども、人体模型のようにきれいで血の気配を感じさせない。もちろん血の出ている場面も描かれるのだけどそれはあくまで風景の一部としてで、損傷された人体が描かれるときはそこに血が流れているとは感じさせないほどきれいなのだ。
もちろんそれはあくまで表現方法の一つとしてであり、深い意味はないのだろうけど、今回の細部の甘さは、そういう描き方に引きずられてしまったせいのような気がする。
しかし、なんといっても一番驚いたのは、ラストの二ページ。そこに描かれた絵はある種の安らぎを感じさせるものであるのに対して、そこに書かれた言葉の内容の方は愕然とする。
そこまで冷酷にならなくってもいいだろうと言いたくなるくらいに現実的な物語の決着の付け方で、虚構の世界から一気に現実へと引きずりだされてしまった。そりゃ実際にこんな事件が起こればこんな結末になるよなあ。ある意味この物語の最大の見せ場はこの最後の二ページなのである。
コメント