もののたわむれ

もののたはむれ

  •  松浦 寿輝/
  • 販売元/出版社 新書館
  • 発売日 1996-11

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今となっては何故この人の本を読もうと思ったのかどうにも思い出せない。そもそも私と松浦寿輝とでは接点が無さ過ぎるのだ。
おそらくはネットであれこれ検索しているうちに琴線に引っかかる物があったのだろう。まあ今となっては良く引っかかってくれたものだと思うのである。
と、思ったらこの人、かつてサンリオSF文庫から出ていたミシェル・ジュリの『熱い太陽、深海魚』を翻訳した人だということがわかった。『熱い太陽、深海魚』は読んだことは無かったのだけれども、この本を手に取った記憶はある。まるっきり接点が無かったというわけでもなかったようだ。
この本は、全部で14篇の短編集なのだが、なんとも不思議な話だ。物語らしい物語の体裁などとってなく、身辺雑記のエッセイを読んでいるような感じでどの話も始まり、そして終わる。しかしエッセイと違うのは、どの話も途中でいつの間にか不思議な出来事が起こったり、または作中の世界が突如異世界に切り替わったりするところだ。
あまりこの手の小説を読んできたことが無かったせいもあるかもしれないが、この切り替わりは見事と言うしかないのである。「黄のはなの」など、なにも不思議な出来事は起こらないのに、登場人物の一言によって、その瞬間世界が切り替わってしまうのだ。そして圧巻はやはり「千日手」で、これなんかは怪談話というべきかもしれないけれども、これはSF小説だと言ってSFの方に引き込みたくなるような素晴らしいビジョンを最後に見せつけてくれる。
それにしても「黄のはなの」の中で登場する、宝田明と浜美枝の主演した007もどきの映画って、都筑道夫が脚本に携わった『100発100中』のことじゃないか。そんなに評判悪いのかあれって。

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