雪沼とその周辺

自分ではわりと翻訳物を読んでいるつもりでいたのだけれども、それはつもりでしかなく実際はあまり読んでいないのではないのかと気になったことがあった。
で、記憶にある範囲内で自分の所有している本のうち翻訳物がどのくらいあるのかを調べてみた。まあ実際には所有している本の比率よりも読んだ本の比率の方が大事なわけでそちらのほうを計算しなければいけないわけだが、積読本もたくさんあるのだ。そしてそれ以上にやっかいなのが、読んだことは確かだがどんな内容なのかきれいさっぱり忘れてしまっている本もたくさんあるということである。記憶に残っていない本など読んでいないのと同様である。
しかし、そこまで細かく規定しようとすれば、読んだうえでその内容を覚えている本でありそれが著者の意図した通りの正しい読み方をしたものである本ということになるのだが、そうなると何も読んでいないに等しいのではないのだろうかと思う。
うーむ、話をわざとおかしな方向へとねじ曲げてしまったらどんどんと最初の趣旨から離れていってしまいそうになったので、元に戻そう。
とにかく、正確なデータが欲しいわけではないし、客観的な事実のみで答えが知りたいのであるからして所有している本の割合だけで計算してみることにした。
そうしたら驚いた。
翻訳本は四割強といった程度で過半数を超えていなかったのである。
あくまで記憶にある範囲内における比率であるからして記憶にない物を加えれば過半数を超える可能性もなきにしもあらずなのだが、多分無いだろう。
しかし、ここでふと気がついた。
日本の出版点数のうち、翻訳物の比率はどのくらいなのであろうか。
この比率が四割であったとしたら、国内・国外まんべんなく読んでいるということになるのではないだろうか。というわけでネットでちょっと調べてみたら、2004年では翻訳物の比率は8.9%というデータがあった。どうやら10%以内の比率であるらしい。
なんだそう考えると海外作家を重点的に読んでいるんじゃないかなどと、何に安心したのかわからないがとにかくひと安心したのもこの本を読むまでの話だった。
というわけでようやく本題の方に戻る。最初からこの部分から書き始めれば良かったわけだし、脱線しかけて無理矢理話を元に戻すなどというみっともない事までしてここまで書いてきて、消してしまおうかと思う気もしないでもないのだけれども、みっともない文章など今までも垂れ流し続けてきたわけで今更恥ずかしがることなど何もない。せっかく書いた文章を消すのはもったいないのでこのまま行こう。
国内の作家に関していえば、伊井直行の『濁った激流にかかる橋』とか、辻原登の『枯葉の中の青い炎』とか、松浦寿輝の『もののたわむれ』とか最近驚くほど凄い本にぶちあたり続けている、ただし辻原登で『枯葉の中の青い炎』を挙げるのはちょっと反則で新しく読んだのは『だれのものでもない悲しみ』の方であるが、それはともかくどの作家も守備範囲のSFとミステリ以外のジャンルからだ。
もっとも守備範囲以外のジャンルの本を読んで凄いなあと感心するのはこれが初めてというわけでもなく、だったらそんなこと書くなと言われそうなのだが、まあ何を書いてもいいではないか、自分のブログなんだから。読みたくなかったら読むな。
えー、どんどん話がわき道に逸れてしまうのでまた元に戻す。結局何を言いたいのかと言えば、堀江敏幸の『雪沼とその周辺』を読んであまりの凄さに腰を抜かし、海外の作家ばかりにうつつを抜かしている場合じゃないなと思ったということである。だったらここから書けば良かったじゃないのか、さっきの「本題の方に戻る」は何だったのだといいたい気持ちも良くわかる。しかし「本題の方に戻る」であって、「本題に戻る」ではない。
25ページほどの短い文章の中で、たいして何か事件が起こるというわけでもなく、といっても寄る年波に勝てず長年経営してきた小さなボーリング場をたたむ経営者がいたり、レコード盤を扱ったら天下一品だけれどもCDが普及したとたん客の好みが読めなくなりレコード店を辞める羽目になってしまった男がいたり、話の冒頭で突如謎の言葉を残して死んでしまう老女がいたりと、わりと読み手の興味を引く出来事は起こるのである。
しかし表層的なレベルで流れる時間はごくわずかな時間であるのにその間で過去にさかのぼって恐ろしいほどの密度の時間が描かれるのである。
一編一編を読み終えて、今自分が読み終えた物語はいったい何だったのだろうと、読み終えたばかりであるのにもう一度読み返したくなる話だ。
雪沼とその周辺 (新潮文庫 ほ 16-2)

  •  堀江 敏幸/
  • 販売元/出版社 新潮社
  • 発売日 2007-07

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コメント

  1. 堀江敏幸【雪沼とその周辺】

    2004年に谷崎潤一郎賞を受賞した連作短編集。2003年の川端康成文学賞受賞作「スタンス・ドット」を収録。
    雪質の良さで知られるスキー場のある雪沼という町とその周辺地域で、小さな…

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