- 著 ジュディス・メリル/
- 販売元/出版社 晶文社
- 発売日 1972-07
福島正実が僕にとってのSFの父であるとしたら、SFの母はジュディス・メリルだ。
まだ僕が今よりもずっと若く、SFがただ単純にサイエンス・フィクションの略で別にその事に対して何にも考えていなかった時代、ジュディス・メリルのこの言葉に出合った。
What is S-F? Science Fiction? Fantasy? Yes—-and much more.
S is for Science and Satellites, Starships and Space ; for Semantics, Society, Satire, Suspense, Stimulation, Surprise, above all—-Speculation.
F is for Fantasy, Folklore, and Fate and Free Will ; Firmament,Fireball,Fission and Fusion ; Facts and Factseeking, Figuring, Fancy-free,and just plain Fun.
SFのSがScienceのSだと思っていた僕にとって、Sはそれだけじゃないというメリルの言葉はそれはもう衝撃的だった。
その後、小松左京が「SFはあらゆるジャンルと結びつくことができる」ともっとわかりやすい言葉で語り、これも衝撃的だったのだが、ジュディス・メリルの言葉のほうが最初だった故にこの言葉のインパクトが大きかった。
僕がSFにどっぷりと浸かりだした70年代にはもうSFから離れてしまったジュディス・メリル。彼女はSFが好きだったけれども結局最期までSFに満足する事が出来なかったんだろうねえ。60年代後半に書かれたこの評論集を読んでみるとそう思ってしまう。
それにしてもパワフルな人だよなあ、ジュディス・メリルって。ジョン・キャンベル・Jrに文句を言うことが出来るくらいなんだから凄い。福島正実ですら軽くあしらわされてしまったというのにだ。
この本の中で触れられている作品のうち未訳の物はまだまだあるのだけれど、ディレイニーの『ノヴァ』『アインシュタイン交点』はともかく『ベータ2のバラッド』は翻訳されたし、エドガー・パングボーンの『デイヴィー』もそうだ。スタージョンの「殺人ブルドーザー」まで出たのはご愛敬といったところかもしれないが、ただ単純にSFを楽しんでいる身にとって、今はいい時代だよなあと思うのだ。
SFに何ができるか。
まあそんなに畏まって考えなくっても、一人の人間に生きる勇気と希望を与えてくれたことは確かである。
って、ちょっと大げさか。
コメント
この言葉は,「年刊SF傑作選」の扉にも書かれていますなあ。残念ながら,この評論集は読んでいないのですが,「年刊SF傑作選」は,メリルの思いを体現したものでありましょう。「Speculation」⇒ニューウェイブ⇒衰退が一抹の寂しさを感じますなあ。
私は、メリルの評論の方は読んでいても小説の方は読んでいないので、そのうち探し出して読まないといけないなあと思っています。
まあジャンルの衰退というのは仕方ないことだと思いますが、そのうち周り回ってまた復興するかもしれませんね。