怪奇小説という題名の怪奇小説

怪奇小説という題名の怪奇小説 (1980年) (集英社文庫)

  •  都筑 道夫/
  • 販売元/出版社 集英社
  • 発売日 1980-01

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飛ぶ鳥をも落とす勢いであると言ったらちょっと過言かもしれないけれども、そんな勢いのある道尾秀介が選ぶオールタイムベスト3の一つが都筑道夫の『怪奇小説という題名の怪奇小説』。
で、読んでみるとなんとも形容しがたい不思議な小説だ。
主人公は怪奇小説を依頼されたとある作家。得意のジャンルなので簡単に書くことが出来るだろうと思っていたらこれがなかなか書くことが出来ない。子供の頃の体験談を思い出しながらなにか使えそうなアイデアが無いものかと思案するところから物語が始まるのだけれども、これの部分だけ読むと単なるエッセイにしか見えないところが巧妙な部分で、それからいきなり怪奇小説の定義に移り、その成功例の一つとして自分の訳したジョン・スタインベックの「蛇」がまるごと掲載される。おそらく翻訳権とかは取得したはずだろうけれども、小説の中に他人の小説が丸ごと入っているというのはどうも居心地が悪いものだ。しかしそう思い始めてしまうと、もうそれは作者の手中にとらわれてしまったわけで、境界線の曖昧な不思議な世界に翻弄されるのだ。
光文社の都筑道夫コレクションには何故か収録されなかったけれども、ジャンルを決めて収録作品を整えた都筑道夫コレクションに入れるとなると作品自体のジャンルを決めてしまわなければいけなくなるわけで、ジャンル決めをしてしまうと面白みが欠けてしまうこの作品、かえって収録されなくて良かったのかも知れない。

コメント

  1. doutin より:

    28年前の小説と見てみるとちょっと読む気はうせるのですが、
    説明を聴くとなんだか無性に読みたくなりますね。
    amazonでは取り扱っているみたいですし、なんだか興味があります。

  2. Takeman より:

    境界線がだんだんと曖昧になっていく変な話なのでちょっと人にはお薦めしにくいんですが、まあ200ページ程度の薄い本なので機会があったら読んでみてください。

  3. さくら より:

    はじめまして。
    いつも楽しく読ませていただいております。
    大好きです、この小説。と言っても小学生の頃に何十回も読み、その後高校生の時に読んだのが最後なのでもう随分離れているんですが。
    だいぶ歳もとって少しは物事が判るようになってきたので久々に読んでみようかと思いました。都築道夫は「はだか川心中」あたりも大好きです。
    懐かしかったので思わず書き込んでしまいました。
    書き込みついでに当方のブログよりリンクのお伺いを立てさせてください。
    腐女子サイトにぶらさがっているごたまぜブログですが、差し支えなければよろしくお願いいたします。

  4. Takeman より:

    さくらさん、はじめまして。
    >と言っても小学生の頃に何十回も読み、
    ええっ、小学生の時にこの本を読まれたのですか。それは凄すぎます。
    私は再読はあまりしない方なので、というか新しい本を読むので手一杯で再読する時間がなかなかとれなかったりしますから、一冊の本を何回も読むってのはちょっと憧れます。
    リンクのほうは、許可など入りませんのでどうぞご自由に行ってください。

  5. さくら より:

    リンクのご快諾有り難うございます。
    さっそくリンクさせていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。
    コードウェイナー・スミスは好きな作家3人の1人に入るくらい好きなので、自分のブログに「アルファ・ラルファ大通り」の文字があるのを見るとなんだかドキドキします(笑)。
    「怪奇小説~」は表紙とタイトルの怖いもの見たさで手をつけ、なんだかエロスな内容に背伸び気分で読んでいる内にあの足下が不確かになるような迷宮的構造の虜になってしまいました。同じ本を何回も読むのは頭が悪くて1回読んだくらいではディテールを殆ど忘れてしまうので、何度でも楽しく読めるからではないかと…私はTakemanさまの読書量に憧れております。こんなにたくさんの新しい世界との出会い、素敵ですよね!
    2回連続長文のコメントにて大変失礼いたしました。
    これからも楽しみに通わせていただきます(^-^)

  6. Takeman より:

    >自分のブログに「アルファ・ラルファ大通り」の文字があるのを見るとなんだかドキドキします
    私は厚顔無恥なので厚かましくも堂々と使ってしまっています(笑)
    >こんなにたくさんの新しい世界との出会い、素敵ですよね!
    北村薫は「小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだ」というようなことを言っていたのですが、私の場合も同じようなものです。
    まあようするに我が儘というか欲張りなんですね、私は(笑)

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