- 著 三浦 しをん
- 販売元/出版社 幻冬舎
- 発売日 2008-02
ああ、これはいい話だなあ。
なんの予備知識もなくいきなり読んで、そして途中で明かされるある出来事に驚いて、そして最後の話まで一気に読みすすむ、というのが理想的なんだろうけれども、残念ながらそういう読み方は出来なかった。
もともとどんな話なのか知っていた上に、裏表紙のあらすじにどんな話なのかしっかりと書かれてしまっているからだ。
もっとも、あらかじめどんな話なのか知ってしまっていたとしても読み終えて、いい話だなあと感じるには違いないので問題ないわけだけど、やっぱりちょっと惜しかった。
有名な昔話を換骨奪胎して語り直していて、まあそれ自体は別に珍しい事ではないのだが、その語り直し具合が読んでいてなんだか気持ちがいい。あくまで誰かが誰かに語るという形で物語が進む。よくよく考えれば細かな部分で都合の良すぎる展開をしたりして、深く考えると納得のいかない部分もあるのだけれども、ああ、しかし、最後まで読み進めて、そして最後の一文を読み終えたとき、なんだか非常に心地よい気分にさせられるのだ。
誰かが誰かに語って、そしてそれがむかしのはなしになるのである。
コメント
「むかしのはなし」
今回ご紹介するのは、「むかしのはなし」(著:三浦しをん)です。
‐‐‐‐‐内容‐‐‐‐‐
三ヶ月後に隕石がぶつかって地球が滅亡し、抽選で選ばれた人だけが脱出ロケットに乗れると決まったとき、人はヤケになって暴行や殺人に走るだろうか。
それともモモちゃんのように「死ぬことは、生まれたときから決まってたじゃないか」と諦観できるだろうか。
今「昔話」が生まれるとしたら、をテーマに直木賞作家が描く衝撃の本格小説集!!
‐‐‐‐‐感想‐‐‐‐‐
この小説は七つの短編・中編で構成されていて、それぞれ日本の昔話と少しだけ似た展開になっています。
各物語の冒頭には昔話の概説が登場します。
それらは以下の七つです。
かぐや姫
花咲か爺
天女の羽衣
浦島太郎
鉢かづき
猿婿入り
桃太郎
これらの昔話を少しだけモデルにした物語が以下の七つです。
ラブレス
ロケットの思い出
ディスタンス
入江は緑
たどりつくまで
花
懐かしき川べりの町の物語せよ
それぞれの物語と昔話が関連しているのはほんの一部分なので、物語によってはどこが関連しているのかわかるまでに時間がかかるものもありました。
でも、各物語の内容そのものが充実しているので、昔話との関連性についてはあまり気になりませんでした。
それぞれの主人公たちはみな「あなた」や「先生」や「日記帳」など、誰かや何かに対して話しかけるという形式になっています。
今まで読んだことのない形式だったので新鮮でした{/star/}
この小説がなぜ「むかしのはなし」なのかは、各物語を読んでいくうちに明らかになってきます。
巨大隕石の衝突が三ヶ月後に迫っているというのが、この短編集の重要なテーマです。
政府から国民に向けてその発表があってから、人々は混乱します。
宇宙への脱出用ロケット{/roket/}に乗れるのは1000万人だけで、抽選で選ばれた人だけが乗ることができます。
でも抽選というのは建前だけで、実際には政治家や科学者など、乗れる人は最初から決まっています。
そんな状況下で物語の主人公たちは、隕石が衝突する前に体験したことをむかしのはなしとして、録音ディスクに記憶させます。
それを「人類の記録」として、宇宙空間に放つのです。
どこか遠い星にそのディスクが流れ着いて、その星に生命体がいれば、「かつて地球という星で巨大隕石の衝突があって、人類が絶