- 著 真保 裕一
- 販売元/出版社 講談社
- 発売日 2008-01
『奇跡の人』を積読本にしてしまって以来、なんとなく真保裕一から離れてしまっていたのだけれども、『ホワイトアウト』以来の山岳ミステリということで読んでみることにしてみた。
『ホワイトアウト』が山岳ミステリなのかどうかという問題はさておき、三編からなる短編集で、なおかつそれほど厚くないということが読んでみようと思った一番の理由なのだが。
ミステリといっても殺人事件が起こるわけではなく、どちらかといえば山岳小説といったほうが近いのだが、遭難した登山者を救出する物語「黒部の羆」などでは、どこがミステリなのだろうと思いつつも読み進めていくと最後になってあっと驚く仕掛けがほどこしてあったりして、ああなるほどと思ったりもする。
「雪の慰霊碑」では、山で息子を亡くした父親が、数年後に同じ山に登るという話なのだが、何故山に登るのかというのが謎となっている。その結末はちょっと出来すぎというか安易な感じもしないでもないのだが、読後感が非常に良く、ああ良い話を読んだという気分にさせてくれる。
しかし表題作が一番面白い。
誰一人として制することが出来なかったホワイト・タワーと呼ばれる山の北壁登頂に成功する。しかし彼の写した山頂写真に疑問の声があがる。彼は本当に山頂にたどり着いて写したのだろうかという謎なのだがその真相が分かった時、ひさびさにミステリらしいミステリを読んだという気分にさせられた。そこに悪意が無いのが良いよなあ。
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