- 著 式 貴士
- 販売元/出版社 光文社
- 発売日 2008-02-07
式貴士といえば「カンタン刑」なのだろうけど、これはもう枕詞のようなものではないだろうか。
初めて式貴士の本を読んだのは僕が中学生のころで、その本は『カンタン刑』という題名の文庫本だった。題名そのもののインパクトはあったけれども、どうもこういった方面の話に関しては耐久力があるというか、いやむしろこういった方面に関して想像力がさっぱり働かないせいで読んでいても全然平気だったのである。まあどんな気色悪い話であろうが恐ろしい話であろうが想像力を働かせなければ大丈夫なのだ。
というわけで、僕にとっては式貴士といえば「長いあとがき」なのである。もともと「あとがき」が好きで「あとがき」の無い本はどんなに面白そうな内容でも手に取らなかった僕にとって、「長いあとがき」を書いてくれる式貴士は最高の作家で、高校での読書感想文に『カンタン刑』を選んで「長いあとがき」に対する愛情を書いてしまうほど熱中していたのだった。
しかし、どんなに好きな作家であっても、当時の財力ではハードカバーまでは手が出せず、もっぱら文庫化された物を読むので精一杯だった。
で、どんな場合でも熱は冷める時がくるのだ。
文庫化された本に「長いあとがき」がつかなくなってしまったのだ。そのとき初めて大人の事情と厳しい社会の現実を突きつけられたわけなのだが、あいにく突きつけられたことさえも気がつかないほど当時の僕は馬鹿だったでの、それ以降式貴士に対する熱が冷めてしまったのである。
こうして装いも新たに出版されたこの本を読んで、自分のあさはかさと無知を悔やみ、そしてあらためて式貴士の持つセンチメンタリズムに心が揺れ動いたのだが、読み終えてみると「長いあとがき」が無いことに失望している自分がいるのであった。
コメント
『カンタン刑』 【読後感想】
SF作家 式 貴士著作短編集『カンタン刑』
久しぶりに強烈な作品を読む機会に出会いました。
表題作は、具体的な残酷さと、氷で人を殺すような残酷さを鮮やかに描ききっています。
具体的な残酷を描く描写は、吐き気を抑え切れないほどのものもありますが、それ以上に恐怖で人を支配しようとする残忍さにはゾクッときました。
収録1作目の表題作を読み終えた段階で、一旦、本から離れてしまうほど、私には強烈でしたが、
他作品も奇抜な視点、不可思議な発想がふんだんで、ある意味強烈な作品集となっています。
全ての作品の根底に流れるものは歪んだ世界の中で生まれる狂気なのでしょうか。
この本を書店で手に取ったきっかけは、‘カンタン刑’ってどんな刑なんだろ?という素朴な疑問と、日月沙絵(たちもりさえ)の美しい絵表紙に惹かれたからなのですが、私の書棚に異光を放つ1冊です。
数多のペンネームを持ち、様々なジャンルに作品を残している著者の奇才を垣間見た気がしました。
関連サイト
ファンサイト「式 貴士研究サイト 虹星人」