とある飛空士への追憶

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い) (ガガガ文庫 い 2-4)

  •  犬村 小六
  • 販売元/出版社 小学館
  • 発売日 2008-02-20

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その昔、『空戦マッハの戦い』というウォー・シミュレーションボードゲームがあった。
戦闘機によるドッグファイトという三次元の世界を二次元のボード上でシミュレートする、まあ、まさにゲームデザイナーの執念の固まりによって生み出されたようなゲームだった。
空中戦を楽しめるようにゲーム化したのではなく、かろうじてゲームとして遊べるレベルまで仕方なくシミュレートを簡略化したというゲームなのでとにかく覚えなくてはいけないルールは膨大だった。2秒程度のドッグファイトを30分以上かけてシミュレートして遊ぶのである。それなりの覚悟がなければ苦行に近い。しかもスプリットSやらバレルロールといったマニューバでさえシミュレート可能だったのだが、二次元上でシミュレートするので、盤上では小さな駒が右へ左へとちょっとだけ動くだけという視覚的には恐ろしく地味なゲームだった。
それはともかくとしてこの物語は、何処かで見たような設定、何処かで見たような展開、何処かで見たような結末でありながら、実によくできたウェルメイドの物語だ。
こう書くと全然褒めていないように見えるのだけれども、そんなことはない。いや実際、ここまですがすがしい物語は久しぶりなのである。
確かに欠点をあげればきりがない。どういう条件がそろえばこんな環境ができあがるのかさっぱり判らない大瀑布などは、まあファンタジーということでその設定に関しては目をつぶりまくったとしても、それでもせっかくこれだけのビジュアル的な要素を作り出しておきながら、世界設定の一要素としてだけしか使っていないあたりは文句の一つも言いたくもなる。
さらには、お前はドラえもんの四次元ポケットかと突っ込みたくなるほど、次から次へと奥の手を繰り出す主人公もどうかと思うのだが、終盤のドッグファイトにおける高速かつ高密度な展開は燃える。
ここまで見せてくれれば、我慢できない欠点でさえ何処かへと吹き飛んでしまうのだ。
まあ人によって見所は違ってくるだろうけれども、終盤のドッグファイトだけで私は十分に満足したのだった。

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