- 著 ジョー R・ランズデール
- 販売元/出版社 早川書房
- 発売日 2008-05-09
久しぶりのランズデールの新刊だったので期待をしたのだけれども、音を媒介にして過去を視ることが出来る能力を得た主人公という部分で嫌な予感がした。
あくまで限定された過去しか視ることが出来ないとはいえ、これではまるで浅暮三文の『石の中の蜘蛛』ではないか。あの話があまり好きではなかったので非常に不安になった。
で、読んでいくとランズデールは主人公がその不思議な能力を得ることになった原因と主人公がその能力に気がつくエピソード、さらにはその能力の理論的な説明までご丁寧に描いている。
無論そのこと自体は何の問題もないのだが、それで納得できるのかというと別問題なのである。
納得できるかどうかという以前に、設定を成立させるのに最低限必要な手続きだけはとりあえずしておきました的な雰囲気が漂っていてどうも話に乗ることが出来なかった。こんな形式だけの説明ならば無かった方がはるかにましだし、いつものランズデールならば理屈をこねずに強引に押し切ることが出来ただろうと思ってしまう。
さらには拳法の達人が登場したあたりでげんなりしてしまった。ひょっとしてこの話はランズデールが手持ちの材料を適当にあり合わせて作っただけの片手間仕事だったんじゃないのか。主人公の成長物語の部分といいとにかく新味が無いのである。
右肩上がりに不安感は増大していったのだが、しかし、終盤に入って逆転した。
殺された友達の遺体を冷蔵庫に入れて隠蔽するあたりから雰囲気が変わったのである。
さらには犯人の家に侵入しその遺体を置いてきて、「われわれは知っている」などというメッセージカードを残すあたりは、遺体を単なる物としか思っていないような扱いでさすがは非道なランズデールだ。
そしてそんなことをして報復されるとは思ってもいない主人公たちも主人公たちなのだが、報復するためにその遺体を持って主人公たちの家に押し入る犯人も犯人である。その後はどたばたコメディとしか思えない状況がシリアスな筆致で描かれ、犯人たちは隠蔽工作を使用とした結果、どうあがいても言い逃れできそうも無い状況にまで発展するのだが、収集の付かなくなった状況を犯人はさらにめちゃくちゃにし、こんな状況では誰も合理的な解釈をすることは出来ないだろうから大丈夫だと納得してしまうのである。そして、
「あとは、UFOが崖壁に激突してくれさえすれば完璧な夜になる」
と考える。確かにこの犯行現場にUFOが激突してくれればもう誰もここで何が起こったのかなど説明することすら不可能になるだろう。
しかし、よくまあこの間抜けな犯人が今まで捕まらなかったものだといいたいところだけれども、それなりの理由は存在する。しかし、やっぱり吹き出してしまった。
上品なランズデールもいいのだけれどもああ、やっぱり下品なランズデールのほうが楽しい。
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