宇宙兵物語

宇宙兵物語―外惑星野郎ども (ハヤカワ文庫JA)

  •  今日泊 亜蘭
  • 販売元/出版社 早川書房
  • 発売日 1988-04

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ここのところ、毎月のようにSF作家の訃報を耳にしている。
アーサー・C・クラークが亡くなったとき、日本には今日泊亜蘭がいるというような発言をしていた人たちがいたんだけど、私もそう思った。
しかし、これはあくまで長老という意味だったのだが『宇宙兵物語』を読んでみたら、ああこれは、クラークが日本人として生まれて、言語学にこだわって、ドラマツルギーにもこだわったとしたら、短編に限っていえば今日泊亜蘭になったじゃないか、って思ったのだ。
今日泊亜蘭が描いたこの世界では、当たり前のことだが重力や加速度や慣性といった物理法則に支配されているのである。そしてそれが物語の中でしっかりと意味をもって扱われている。
ハードSFとまでは言い切れないので物理法則が物語の要となる話はあまりないのだけれども、それでも、大気圧と出産とを掛け合わせた話なんて今日泊亜蘭が書くなんて思わなかったよ。しかも難産となって母胎と子供の危機的状況を加速度でもって解決してしまうのだ。
一方で、三人の兵隊を乗せて外宇宙へ調査へと向かった宇宙船が太陽系へ戻ってきたとき、中にいたのは一人の女性だったという「宙の砂漠を」では三人の兵隊の行方と女性の正体という謎も魅力的ながらも、焦点はそんなところにあらずで、冒頭の魅力ある謎さえ吹っ飛んでしまう余韻のある終わり方をしたりする。
そうかと思えば、今日泊亜蘭版、ブラッドベリの「万華鏡」ともいえる「訣別の賦」では、ああこれは良い話で終わるだろうと思っていると、それが最後の二頁で驚愕の展開をする。
しかし、一番の問題はクラークよりも寡作であったことだ。ああ、この世界をもっと読みたかったよ。

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