- 著 今日泊 亜蘭
- 販売元/出版社 早川書房
- 発売日 1978-05
冒頭の「ムムシュ王の墓」、今日泊亜蘭の主人公としては珍しく熱血漢でもなく、理知的で穏やかな主人公なのは殿下だからなのかそれはともかく、ムムシュ王の墓の調査が五千年まえから行われてきていたというタイムスパンの長さは凄いけれども、事の真相が読者を驚かせるためだけのような突拍子もない真相で、まあ可もなく不可もなくといったところ。
「奇妙な戦争」では宙泊胡乱氏が登場するあたりが自作のパロディで夢オチに近い反則技でもあるんだけれども、なんとなく許せてしまうあたりは贔屓の作家だからだろう。
表題作は題名に「海王星市」とあるのに舞台は地球で、いったいどうなっているんだろうと思いながら読んでいると、まあ次第に事の真相が見えてくる。ある意味「カシオペヤの女」の変奏曲的な真相というか、この手のパターンが好きな人だなあと思ったりもする。
白眉はやはり「綺幻燈玻璃繪噺」で他の作品と比べるとこれだけ場違いなほど浮いている話なんだけれども、ああ、この作品が来月のSFマガジンでの今日泊亜蘭追悼企画で掲載されるんだよなあ。
昔は「厶んす」が読めなくって苦労したんだけれども言葉に出して読みたい日本語とはこのことで、この間読んだばかりなのに『縹渺譚』をもう一度読み返したくなった。
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