- 著 野田 昌宏
- 販売元/出版社 早川書房
- 発売日 1976-12
出版芸術社の『日本SF全集』リストを見ていたら、野田昌宏の名前が無いのに気がついた。交渉中の作家もあるとはいえども、もはや本人との交渉は不可能なのでおそらくこの全集に野田昌宏の作品が入ることはないのだろう。
せめて「レモン月夜の宇宙船」あたりは入れてもいいんじゃないのかと思ったのだが、あらためて読み直してみると、まあこれは、SFというよりもSFファンのための物語であって、エッセイで書いていたことを物語にしなおしてみたというか、願望充足の話なんだよなあ。
むちゃくちゃな話なんだけれどもどこかしら憎めないところがあるわけで、他の短編も同じだ。マシスンの某短編と同じネタの「五号回線始末記」なんかは、マシスンの方はホラーになっているんだけれども、野田昌宏はといえば同じネタでもテレビ屋の強かさというかちゃっかりした部分があって、苦笑いで終わる。
意外なのは、タイムトラベルネタが多いことで、「ラプラスの鬼」「ステファン・ラドクリフの薔薇」「東京未来計画」「学術研究助成金」と半分がそうだ。もう一つ意外といえば、登場人物を酷い目にあわせているのも意外なところで、「ラプラスの鬼」では女優が中世のヨーロッパにタイムスリップして魔女裁判で死ぬし、「東京未来計画」ではスタッフの一人が同じくタイムトラベルで遙か過去に行って帰って、そして死ぬ。「OH! WHEN THE MARTIAINS GO MARCHIN’ IN」ではなんと、子供たちがUFOに誘拐されて、されっぱなしのまま物語が終わってしまうのだ。小説でもやりたい放題な人だったのである。
コメント
こんにちは。
日本SF全集に野田昌宏は収録されてないのですか。それはちょっと首を傾げますね。
>エッセイで書いていたことを物語にしなおしてみた
まあそうなんですけど、その虚実皮膜のあわいの絶妙さはSFの醍醐味のひとつではないでしょうか。ただしワンパターンではありますけどね(^^; その意味では「レモン月夜……」だけ押さえておけばいいのかも。逆にいえば「レモン月夜」だけは全集に収録して欲しかったと思いました。
okumaさん、こんにちは。
>その虚実皮膜のあわいの絶妙さはSFの醍醐味のひとつではないでしょうか。
すみません、確かにそうですね。
そう考えると、人生そのものがSFだったというか、存在自体がSFだったとでもいいましょうか、全集に入れなかったのは正しい選択だったのかもしれません。