- 著 上田 早夕里
- 販売元/出版社 角川春樹事務所
- 発売日 2008-10
思っていたほど突飛というか、センス・オブ・ワンダーが炸裂するような話ではなかったので、意外だったのだわけで、終盤になって派手な見せ場はあるものの全体的には地味な話だった。
もっともここでこの話を地味だと言ってしまうのはちょっと語弊があるわけで、地味というよりも手堅いと言った方がいいのだろう。
文庫化されるにあたってかなり改稿したらしく、まず主人公の年齢が九歳上がって三十九歳とおじさんになっている。元本のほうを読んでいないので年齢の違いがどのような変化をもたらしたのかはわからないけれども、文庫版を読む限りでは全然不自然ではない。
テラフォーミングされた火星を舞台としながら、ハードSFではないけれども、その設定や火星社会、列車という移送手段や軌道エレベータ等、細かな気配りが効いていて、そのあたりが読み続けるうちにボディブローのように効いてくる。
敵役の登場人物でさえも人物像の設定がしっかりとなされているので、ぶれがなく、単純な善悪の二元論だけで割り振られるような人物ではないところも素晴らしい。
なおかつ、悪側が単純な私利私欲で動いているのではなく、悪側の論理がSFとしての大ネタと密接に結びついてしまっているので、ついつい悪の方に肩入れしてしまう自分がいる。SF者としてはこのビジョンは確かに魅力的なのだ。
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