- 著 三崎 亜記
- 販売元/出版社 集英社
- 発売日 2008-11
分量的にはもの凄くいびつな短編集だ。数頁で終わってしまう話があれば、100ページ近い分量の話もある。
でもって、どれも面白いのかというと微妙なところで、そう思ってしまうのは基本的にこの人の書く小説はSFなのだという先入観でもって読み始めてしまうせいだろう。
だって、仕方ないじゃないか。昔だったらこんな設定の話を書いていたらSF小説として扱われていたはずだ。いや、世間がそう扱わなくったって自分はそう扱う。
しかし、作者の方はそんな風には思ってもいないみたいなので、どうもずれがおきてしまう。
確かに一番ボリュームのある「送りの夏」を読むとSF的な設定を使っていても、もっともこの話においてはSF的な設定はほとんど無いけれども、進む方向が全然違っていて、いわゆる「いい話」へと向かっているのだ。
どちらかというと『となり町戦争』で見せたようないわゆる役所的なルール下における不条理な設定を楽しみにしていたので「二階扉をつけてください」とか「バスジャック」や「動物園」が楽しめたのだが、それ以外はちょっと好みからはずれた路線だったなあ。
コメント
バスジャック (集英社文庫)
「二階扉をつけてください」回覧回ってきたでしょうよ、といわれ近所を見回すとどうやら町内で、「二階扉」をつけてないのは自分の家だけだった。出産で里帰りしている妻に近所付き合いを任せきりだったせいか、なんのことやらさっぱりわからない。が、とりあえずつけなきゃいけないのか。工務店に電話するとあしらわれ、電話帳を見ると二階扉専門の店があるようだが…。
玄関に立った小太りの中年女性の声は、露骨に険を含んでいた。
-中略-
女性が立っていたあたりに、小太りの怒った塊がまだ立っているような気がした。
「とにかく…すごい本です」帯で手に取ってみて、最初のページがこうだったので、それは確かにと納得して買いました。
面白かったです。
ちょっと現実からズレてる不思議を、至って当たり前のことのように行う人と置いていかれた人と、あるいは受け入れているけど疑問に思っている人、拒絶し後ろ指を指す人、7話の短編それぞれの舞台設定が面白いです。
「バスジャックする市民権を!」とか言われてもね、みたいな。ほぼ現実世界なんだけど、何かが可笑しい世界で。だけど話していることはとても身近な、日常に当てはまる話で、不思議なくらい自然でした。
それからキャラがはっきりしていて面白いです。歌うように言葉を吐く人、間延びした人、動作に人のクセまでつけて語られると、「いるいる、こういう人」と、イメージがつきやすくて好きなんです。桂 望実さんみたいに、細やかでコミカルなタッチになっていて、ほのぼのとします。なのにときどき、いたく心に沁みる言葉があったりして、短い話の中でぎゅっとつかまれるシーンがいくつかありました。
他の作品も読んでみたいです。
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