くらやみの速さはどれくらい

くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4) (ハヤカワ文庫SF)

  •  エリザベス・ムーン
  • 販売元/出版社 早川書房
  • 発売日 2008-12-10

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題名だけでもう名作の薫りが漂ってくる。
実際、読んでみると確かに面白かったのだ。
主人公がいつも疑問に思っている、「くらやみの速さ」。この疑問、それだけでもう自分の琴線に触れまくり続けている。
『アルジャーノンに花束を』が引き合いに出されているので、同じような構造なのかと思っていたら、SF的な設定など無いに等しく、ただひたすら、主人公の生活が描かれ、そして自閉症の治療を受けるかどうか、思い悩み続ける話だった。
で、それが、いやそれだけに終始しているのだけの内容なのにこれが面白いのだ。
ほぼ全編が主人公である自閉症者の視点からの物語でありながら、所々で主人公を取り巻く普通の人々の視点で物語りを語りなおしていたりと抜かりのない作者の作為が卑怯なまでにうまく働いている。
個々のエピソードも主人公の反問にうまく対比するするようなエピソードをぬかりなく投入してきており、これで何らかの感動をしなかったら人間じゃねえよと思わせられる。
しかし、本当の自閉症者がこのような思考をしているのだろうかといえば疑問で、こういう風に考えていて欲しいという作者の願望のようなものが見え隠れしているのもまた事実だ。
木地雅映子の「オルタ」や『悦楽の園』を読んだ後ではついついそう思ってしまう。
むろんだからといってこの本を読んで感動などしていては駄目なのかといえばまったく持ってそうではない。
細部まで丁寧に組み立てられた良い小説なのである。

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