- 著 三津田 信三
- 販売元/出版社 講談社
- 発売日 2009-03-13
文庫化に際して、村の地図や事件現場の見取り図とかが追加されたのでミステリにはそういった地図やら見取り図があるとワクワク感が高まる身としては、巻頭の村の地図を見ているだけでお腹いっぱいな気分にさせられる。
しかも、二つの対立する旧家、そして古くから伝わる奇妙な風習、来ると否が応でも期待感は高まるのだが、しかし、読み始めていくとなんだか微妙におかしい。
それぞれ別々の人物によって書かれた日記や取材ノート、記述録によって構成されているため、物語の展開がなめらかではないのである。まあこういう構成である以上、なめらかになっている方がおかしいのだけれども、横溝正史的な世界を期待してしまうと満足させてくれない。まあ横溝正史的な世界を期待するのであれば横溝正史の小説を読めということでもあるのだけれども。
だから、この本が本領発揮する部分はそういった横溝正史的な世界の物語にあるわけではなく、むしろ、古くさい素材を使いながらも新しい切り口に挑んでいる部分であって、そういう点では、終盤における探偵の謎解きは圧巻だ。
何しろ、犯人はわかったと言って関係者を集めて謎解きをしておきながらも、犯人を突き止める事に失敗するだ。いや、最終的には犯人を突き止めるのだが、そこに至るまでに二転三転、犯人ではない人物を犯人として指名してしまうのである。次々と犯人を指摘し、そしてその人物が犯人ではない事がわかる。普通の探偵ならばくじけそうになるはずなのだが、この本の探偵はそんなことにはくじけず、新たな推理をし犯人を指摘するのである。多重解決といえばその通りなのだけれども、犯人扱いされた人物はたまったものではないはずだ。
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