ポケットの中のレワニワ

ポケットの中のレワニワ(上)

  •  伊井 直行
  • 販売元/出版社 講談社
  • 発売日 2009-05-21

Amazon/bk1/楽天ブックス


ポケットの中のレワニワ(下)

  •  伊井 直行
  • 販売元/出版社 講談社
  • 発売日 2009-05-21

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伊井直行って人はR・A・ラファティなんじゃないかとふと思った。
法螺吹きおじさんとしての意味なんだけれども、伊井直行って人は何喰わぬ顔をしてホラを吹く。
愛と癒しと殺人に欠けた小説集』所収の「ヌード・マン・ウォーキング」はヌードになる男の話なんだけれども、ラストでいきなり途方もないほどの時間が流れそれまでの全てを流してしまったりする。そういえば『愛と癒しと殺人に欠けた小説集』の表紙は円城塔の「パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語」でもあったよなあ。
そして今回はレワニワだ。
レワニワそのものが主人公の父親による法螺話なのだが、その嘘であるはずのレワニワがいつの間にか何気なく実体をもって登場する。
しかし、だからといってレワニワが重要な事柄なのかといえばそれほど重要でもなく、基本的にはPC電源メーカーのコールセンターで派遣社員として働く主人公とその上司であり小学校の同級生でありベトナム人のハーフでもある女性の恋愛話なのだ。
そして恋愛話でありながら、曰くありげな宗教団体に関わり合いのある同級生と再会以後、突如会社を辞めて失踪してしまった彼女の行方を追うというハードボイルド的な物語でもある。主人公は彼女の行方を追う過程で宗教団体から脅迫と暴力行為を受けながらも最後は彼女を追い求めてベトナムにまで行ってしまう。だから表向きはハードボイルド小説の典型的なパターン以外の何物でもない。
そうかと思えば、引きこもって2チャンネルへの書込を職業とし、猫語で話す主人公の義理の弟が登場したりする。伊井直行が2チャンネルの世界を描くとは思いも寄らなかったので驚いたのだが、どれだけ引き出しの大きな人なのだろう、この人は。
主人公は彼女のことが好きなのだが、主人公は派遣社員で将来的な展望など何もない。だから貧乏どうしが一緒になってどうすると彼女に言われる始末。猫語で話す引きこもりの義弟にしろ、登場する人物の誰もが何かしらの悩みを抱えていながらも、というかその悩みというのはわりと深刻な物ばかりで、真面目に捉えると悲しくなる世界なのだが、伊井直行は法螺を吹いている。だから読んでいて深刻にならずにすむし、伊井直行が用意したささやかな愛らしい結末に思わず微笑んでしまうのだ。

コメント

  1. ポケットの中のレワニワ 上下

     電源メーカーのコールセンターに勤務する派遣社員の安賀多くんが、職場の統括主任で小学3年生の時の同級生のベトナム系ハーフの町村さん(ティアン)と職場の野球チームの応援で小学生時代を過ごした団地に赴いたところから、団地に住むベトナム系住民との関わりでティアンの態度・生活が変化したことに戸惑い振り回されながらティアンを追いかける恋愛小説。
     安賀多君の母親の再婚相手の息子の「コヒビト」のオタクぶりと、ベトナムの伝説の架空生物とされる(本当にそういう伝説があるのかわかりませんけど)トカゲとカエルの間のような「レワニワ」が語りかけ、あまつさえメールを打つという荒唐無稽さと、安賀多君やベトナム系住民たちの暗さ・やるせなさが、純文学っぽく、作品を重苦しくしています。文章はそんなに重たくないんですが。
     あくまでも安賀多君の視点での語りで、ティアンの変化と自分探しの失踪・放浪の謎は、結局は説明されません。ティアンの人物像も、混乱して何だかわからない人物っぽくなってしまいますし。安賀多君の愛人「あみー」の件もそうだし、わかんなくても別にいいじゃん、みたいな突き放し方。人生としては、それでいいというか、そういうものですが、小説はもう少し納得させて欲しい。
    井伊直行 講談社 2009年5月20日発行

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