書店で、文庫本二冊を買ったら「1881円です」と言われて思わずびっくりしてしまった。
2冊のうち1冊は、東京創元社の『無限記憶』だったというのがこの値段になった原因だ。
新刊本以外の物に関してはできる限り安い値段で買おうとしているせいなのか、どうも自分の金銭感覚と現実の価格との間にずれがおきているような気もするが、やっぱり翻訳本は高いんだよなあ。
びっくりしたといえば、金田伊功の訃報を知ったときもびっくりしてしまった。
僕がアニメに夢中だったころ、金田伊功はすでに一流アニメーターであり、どちらかといえば異端の天才といった方が近い人であり、アニメーションの世界の中で一人だけ全く別のことをしているという感じだった。
しかし、僕がアニメに熱中していた期間はそれほど長くなく、民放が二局しか映らない場所に引っ越ししたせいでアニメ熱が冷めてしまい、嫌いになったわけではないけれども今ではほとんど見なくなってしまった。
だから、アニメーションの時緒方にも疎くなり、金田伊功のその後の消息も知る由もなかったのだが、スクウェア・エニックスに入社していたとは驚いた。絵を動かすことだけが本当に好きだったんだろう。
と、判ったようなことを書きながらも、実はずっと「イコウ」と読んでいたのであまり大口はたたけない。まさか「ヨシノリ」と読むとは知らなかったよ。でも、自分の中ではこの先もずっと「イコウ」なのだと思う。
知らなかったといえば、『都筑道夫の読ホリディ 上巻』の中で、ロバート・R・マキャモンの実の父親がフォレスト・J・アッカーマンという記述があり、それも知らなかった。
まあ、アッカーマンは作家ではないので、プライベートな情報というのはほとんど知らないし、マキャモンに関しても、二冊しか読んでいないので、マキャモンのプライベート情報もこれまた知らない。しかし、SFファンならばこのくらい知っていて当たり前レベルの情報じゃないか、これは。
というわけで自分の知識の無さにがっかりし、新情報に驚いたわけだけれども、詳しい情報を知ろうとネットで検索してみても、マキャモンがアッカーマンの息子だという情報は何処にもなく、なんだかガセネタっぽい。
しかし、『ブルーワールド』の序文に書かれていると都筑道夫は書いているから、この本の誤植や都筑道夫の勘違いという可能性はかなり低いんだよなあ。
都筑道夫も気になったらしく、『ブルーワールド』の読後、都筑道夫は矢野徹に電話して事実関係を確かめているのだが、矢野徹によるとマキャモンはアッカーマンの息子ではないらしい。いったいどういうわけなんだろうと読んでいるこちらも気になったのだけれども、都筑道夫は序文の謎に首をかしげながらも、その疑問を解決することなくマキャモンの話を終わらせてしまっているしその後の話もない。
「序文」なので嘘を書いている可能性は考えにくいのだが、『ブルーワールド』は持っていないので残念ながらその「序文」を調べようがないので、古書をどうにかして探して手に入れるしかないなあと思いつつ、ネットを検索していたら幸運なことにマキャモンの公式サイトに『ブルーワールド』の序文の原文が公開されていた。
to Forrest J. Ackerman, my true father, who raised me on Famous Monsters of Filmland;
ああ、なるほど。
アッカーマンが亡くなったとき、海外の追悼コメントで、マキャモンのコメントではないけれども、Famous Monsters of Filmlandで育ったというコメントを見かけたことがある。
都筑道夫がその後、事実を知ったかどうかは不明だけれども、知ったとしたら、この翻訳に苦言を呈していただろうなあ。
『都筑道夫の読ホリディ』は都筑道夫の新刊だ。復刊でも再刊でもない、純粋な新刊だ。今年2月の『都筑道夫 ポケミス全解説』に続いての新刊で、ファンとしてはうれしいのだが、版元の「おそらく最後の新刊」という言葉は少し悲しい。そして下巻にあるこの本の編者、小森収の解説が追い打ちをかけて悲しくさせる。
一冊の本を出版するということは、読者が安易に考えているほど単純でも無く、簡単でも無いことで、場合によっては会社の存続でさえ危うくさせてしまう場合もあることを考えると、都筑道夫ファンはとにかく買ってあげてくださいと言いたくなる。
最初は半分ほどの分量でセレクト集として出る予定だった『読ホリディ』を、上下巻で全部収録という英断をしてくれたことは感謝してもしきれない。
しかし、『都筑道夫の読ホリディ』を出したフリースタイル社はまだましなほうかもしれない。
4月末に筒井康隆の『馬の首風雲録』と光瀬龍の『多聞寺討伐』を出版し、6月末に梶尾真治の『ゑゐり庵綺譚』を出して、日本SFにも手を出してくれた扶桑社は苦しんでいるようだ。
いくら良い企画であっても売れなければ途切れてしまうというか、〈昭和ミステリ秘宝〉シリーズのほうは持ちこたえていて、ミステリは大丈夫なのにSFは駄目なのか?
悲しい話続きとなるけれども、SF訃報マガジンとなりつつある『SFマガジン』の2009年9月号は栗本薫追悼号だった。
栗本薫は「都筑道夫の生活と推理」で幻影城新人賞評論部門佳作受賞した。
3年前に出た、光文社の『ジャーロ』22号は都筑道夫三回忌追悼特集には、都筑道夫の未完の未発表原稿130枚が掲載されているけれども、それはともかくとして、栗本薫も都筑道夫論を書いている。
論といいながらも、「都筑道夫の生活と推理」で評論デビューをしたけれども、どんな内容だったのか覚えていないとか、まあ、晩年の栗本薫らしい内容であり、つまるところ読んでも読まなくってどちらでも構わない文章だったのだが、SFマガジンの追悼記事を読んでいたら、栗本薫の記憶力の良さを讃えている文章があって意外に思った。
まあ、栗本薫も歳には勝てなかったというべきか、少なくとも若かったときには才能あふれる人物であったことは確かなのだ。
もっとも、メディアを通した発言がそのまま作家の全てを物語っているというわけではない。触れたくないので覚えていないと書く可能性もある。
それはともかくとして、少なくとも、初期の栗本薫に関しては再評価されてもいいのではないだろうかと思う。
メディアを通さないといえば、同号には今年の星雲賞日本長編部門を受賞した伊藤計劃の『ハーモニー』の遺族による代理コメントが掲載されている。
天国に行ってしまっているので代理でやって来ましたという始まりから、伊藤計劃が家族に言った言葉、そしてカレーライスの話。メディアを通さない伊藤計劃の言葉は、その場で実際に聞いていたら、泣いてしまったに違いない。
ブログの再開をするというわけじゃあないけれども、少しずつ何か書いてみようという気持ちにもなってきたので、相変わらず拙い文章ながらもこうしてたまに何か書くかもしれないけれど、それにしても本を読む時間がなかなかとれなくって、それが悩み所なんだよなあ。
コメント
作家さん・漫画家さんが亡くなると
あのシリーズの続きはどうなったのか?!
など思ってしまう薄情なやつです。
皆さん長生きして完結まで頑張って欲しい(^_^;)
Takemanさん、お帰りなさい (^ o^)/。
都筑さんのこととなると一言いわずにはいられない、のでは無いでしょうか? 中断していたブログに投稿をしちゃうほどですから(笑)。
これでも結構な都筑ファンだと自認していても、Takemanさんには負けるなぁ (^^)。
これからも記事を楽しみにしています。
>ユキノさん
翻訳物の場合、売れなければ続きが出なかったりするので、完結するかどうかはあまり気にしないように努力しています。
私自身も、連載物であってもつまらないと思い始めたら読まなくなったりするので、別な意味で薄情者ですね。
>qumayさん
マキャモン氏がアッカーマン氏の息子という記述に愕然としたのがこの記事を書くきっかけだったのですが、まあ、それにかこつけて書きたかったというのは否定しません(^^;
こんにちは。
わたしもこないだ「無限記憶」を本屋で見て
「お、出ている」と思って何気なくレジに持って行って
1000円出したら、全然足りなくてびっくりしました。
1000円をはるかに越える文庫本って、釈然としませんね・・・。
まあ内容は面白かったですが。
木曽のあばら屋さん、こんにちは。
アレステア・レナルズの千ページを越す分厚い文庫ならばまだ納得できるのですが、翻訳物は仕方がないとはいえ一冊で千円を超す値段だと躊躇してしまいますよねえ。
だから値段を見てしまったら負けなので見ずにレジへいって、そこでびっくりしてしまうんですが。