経過報告3

9/7

会社に着き、しばらくして携帯電話が鳴った。
「○さん、私の携帯のGPS、操作した」
「そんなことしてないよ」
そんな記憶などない。
妻からの電話に素直に否定する。
「今までOFFだったはずなのに。誰かが勝手に操作したってこと?」
否定しなければよかったと後悔する。
妻は、階下の住人が妻の居場所を知るために、妻の知らないうちにGPS機能をONにしたと思い始めている。
こんなことなら自分がやったと嘘をついておけばよかった。
すかさず、最初からONが標準だよといい含める。
そんな馬鹿なとお思いの方もいるだろうけれども、太陽は西から上がると信じてしまえばたとえ物理現象と大きく異なっていてもそれを成立させるための異質な論理を構築して自分の世界を強固にしてしまうのが妄想なのだ。
アパートの管理人に電話し、壁スイッチの状況を説明し、漏電の可能性について聞くのだが、相手の回答は予想外の内容だった。
「蛍光灯の寿命が切れそうになるとそのようになります」
ああ、台所には、妻が必要ないといって蛍光灯をつけなかったのだ。寿命と判断して瞬いてもおかしくは無い。蛍光灯をつけてみれば解決する。その旨を妻にメールする。
思考盗聴を含めた妻の症状に関してネット検索したところ、統合失調症という言葉に行き当たる。
今までの妻の言動と行動がぴたりと当てはまった。
市の精神保健センターに電話すれば相談に乗ってくれることを知り、電話番号と場所を調べたところで携帯が鳴った。
相手は探偵所の人だった。
昨日キャンセルの電話を入れたことの確認だったのだろうかと思いきや、私がアパートを出た後に妻は改めて依頼したらしいのだ。
で、アパートの近くまできたけれども場所がわからないので教えて欲しいと言ってきた。
やんわりとお断りの返事をするも、相手はしたたかである。
自分の人生の線路がどこかで破滅への道筋へと切り替わった感覚がしたが、まあ仕方ないと思い、場所を教え、即効で妻へ電話。
依頼などしていないと、始めて妻が私に嘘をついた。
もちろん、今まで妻が、私に嘘をついたことなどは無いということはないのもわかってはいるのだが、さすがにショックだ。
気の済むようにやってくれればいいと、返答し、精神保健センターがいろいろ相談に乗ってくれるみたいだから電話してみたらと言い、電話を切る。
夜、盗聴器は発見されずちょっと安心という言葉と、昨日の面接に受かりましたという妻からのメールに、少し安心しつつ帰宅。
一方で、盗聴器が見つからなかったことで妻の妄想が増長され、存在などしない機械や道具の方へと向かっていくのではないかと不安になる。
いっそのこと盗聴器が発見されていてくれればよかったとさえ思う。
妻は、就職にあたって、健康診断が必要で明日健康診断に行くらしい。
私は明日、会社を休んで精神保健センターに電話をし、病院を教えてもらい妻を診てもらうことにする。
妻は夜、いきなり起きだして冷蔵庫の付近に行き、怪しい音がでていると言い出す。
私が冷蔵庫のコンセントを抜くとあたりは静かになった。
「下の人が気付いて装置を止めたのよ」
不審に思いながらも妻は、音が静かになったせいか布団に入る。

コメント

タイトルとURLをコピーしました