経過報告51

10/25

今日は妻を病院へ戻さなくてはいけない。
昨日の夜、自発的に薬を飲もうとしなかったので、朝の薬に関して不安になるのだが、妻は、薬を飲まなければいけないから朝食を食べないといけないと私より先に起きだしたのでちょっと安心する。ひょっとしたら就寝前のジプレキサ錠だけ飲みたがらないのかもしれない。
書店に行きたいと言うので、朝食後、書店の開店時刻を見計らって外出する。
昨日、人混みの中にいて平気だった、多分、ので大丈夫だろうと思いつつも、手を繋いだり、話しかけたりと不安にならないように神経を使う。もっとも、そんな事をしなくっても平気そうでもあった。
妻にとっての不安は、階下の人たちにあるので、アパートの外は平気なのだ。
アパートに戻り、テレビを一緒に見たりしていると、妻が、「下の人は静かね」と言ってくる。静かで当たり前なのだ。よほどのことが無いかぎり声など聞こえない。扉を閉める音がうるさい程度なのだ。
穏やかな時間が流れていく。このまま時間が止まってしまえばいいのにと思うのだが、そうもいかない。
妻が、病院へ戻る前に身代わり不動に寄りたいと言ったので、少し早めにアパートを出る。
徐々に妻の様態が変化していく。病院へ戻りたくないのだ。
人つきあいが苦手なので、入院してある種の共同生活のようなものが妻にとっては苦痛なのだ。おまけに新しく入った患者さんは薬のことで妻を不安がらせている。当の本人はそんなつもりはないのだろうけれども、非情に迷惑だ。おまけに妻自身が精神科に対して偏見を持っている。精神病にも偏見を持っている。看護師さんも他の患者さんも、妻にとっては恐怖の存在なのだ。
身代わり不動で妻は神頼みをする。妻にとってはもう、神様にすがるしかない。
病院の駐車場で妻は泣き出す。これから自分が味わう不安と、外泊で味わった自由と安心とのあまりにも激しい落差に耐えきれなくなったようだ。
いったいどうすれば良いのだろう。今回の外泊で問題がなければ今月退院する事が出来るというのに、こんなにも感情を爆発させて不安定な状態になってしまっては退院が延びてしまう可能性も出てくる。まさかとは思うが、今晩、不安に耐えきれなくなって叫び出したりしてしまったら、保護室へ入れられてしまうかもしれない。
妻を治すためには入院以外の方法など思いつかなかった。
しかし、それは妻にとって苦痛以外の何物でもなかった。
どうか神様、妻を助けてください。
幻聴は消えてくれた。しかし、妄想は消えていない。アパートの階下の人はまだ攻撃をしていると思いこんでいる。声が聞こえないのは薬で脳波が消えてしまったからだと思いこんでいる。薬のおかげで幻聴は消えた。しかし妄想という記憶は消し去ることは出来ない。妄想することは止めても、苦しめられたという記憶は残ったままだ。だから記憶が残っている限り妄想はいつでも浮上する。
だから、薬の服用を止めれば、いつでも再発してしまう。
自分の症状を正直に話してしまった為に入院させられたと思っている。それはそのとおりだ。問題は、次は正直に話さないようにしようと誓ってしまっている事だ。
泣きやんで、妻は病院へと向かってくれた。
面会終了時間まで30分ほどあったので、病室で妻と話をする。
しかし、妻の不安を取り去ってあげることが出来ない。私に対しても信頼をしていないのだから、私が何を言っても無駄なのだ。
あまりにも無力だ。
「しっ!って声が聞こえない?」妻が言う。
「私のことを誰かがしゃべっているようなんだけれども、私が聞き耳を立てようとすると、しっ!って声がするの」
残念ながら私には聞こえない。何かの物音が妻にとってはそのように聞こえるのだろう。
妻の妄想や偏見を取り除くことは私にはとうてい出来そうもない。
安心を与えて、不安にさせないようにするしかない。そうして徐々に妻の記憶が薄れていくことを祈るしかない。

コメント

  1. なすか より:

    こんばんは。初めてコメントを書かせていただきます。
    同居している私の叔母が、2年ほど前に奥様と同じことを言っていました。
    「盗聴されている」「監視されている」と主張して譲りませんでした。
    私たち家族は最初に信じそうになりましたが、結局彼女が軽度の統合失調症であることに気がつきました。
    「監視されている。私だけが気づいている。私があなたたちを守っているのに、私の言うことを信じないなんて!」と皿を何枚も投げつけられました。
    叔母を病院には入れませんでした。代わりに、「そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。でももし何かあったら困るから、監視カメラをつけるのでいい?」といい、監視カメラU(お手軽なものですが)を取り付けました。
    叔母は、自分の言い分がとおったことと機械の力に少しだけ安心したようで、1年ほどすると、あまりそうしたことを言わなくなりました。
    叔母は、妄想モードに入っている場合、どんなに言を尽くしても、妄想を取り除くことはできませんでした。それよりも、まず言うことを否定しないことが重要なのだと思いました。
    もちろんこれは私の叔母個人の話です。しかし、何かお役に立てればと思い書き込みました。助けてください、とかつて私も祈ったことがあるので。不適切であれば削除してください。

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