さて、去年からの続きで、2010年に読んだ本の中で印象に残った本について書いてみようと思う。
対象はあくまで今年出版された物に限ることにする。
『ベガーズ・イン・スペイン』に続けて出たナンシー・クレスの『アードマン連結体』。前短編集に比べると少し落ちるかなとも思うけれども、ナンシー・クレスの描く世界は何故か心にしみる。ナンシー・クレスの感性と自分の感性が一致するからだと思う。<無眠人>シリーズが翻訳されたらいいなと思っているので、ネットでの評判が今一つなところが残念。
『ギヴァー 記憶を注ぐ者』ロイス・ローリー
寡聞にして知らなかったのだが、1995年に翻訳されたこの本には根強いファンがいたらしい。地道なファン活動も合い重なって、復刊した。
ジャンルわけするならばディストピアSFであり、児童文学の範疇に入る。今となってはとりたてて目新しい要素はないのだが、この歳になってくるとこういったオーソドックスな話が妙に楽しむことが出来る。
マイクル・フリンの『異星人の郷』となるとまだ記憶に新しいのだけれど、この物語の中で描かれる中世ヨーロッパの世界は、自分の持っていた中世の印象が覆されることとなった。それはSF的設定の部分で受けたセンス・オブ・ワンダーよりも衝撃的だ。
現代パートの部分とのバランスが悪いのが少し難点だと思う。
『神様のパラドックス』は今までと同じ、機本伸司独特のストーリー展開が楽しめる。ようするに途方もない無理難題についてひたすらあれやこれやとディスカッションして、そしてそれを身近な悩みと結びつけて手の届く範囲に着地させる。
よくもまあここまで首尾一貫として、作風というか物語展開を変えずに何作も書くことができるものだと感心するばかりだ。
しかし、ちょっと落ち込んだときに読むと、この手の届く範囲に着地させる結末が心にひびいて、少し元気を出すことが出来る。
ジョー・ウォルトンの『暗殺のハムレット』
ファージング・サーガ三部作として評価するべきかもしれないが、二作目が一番面白い。『スター・ウォーズ:クラシック三部作』だって、一番面白いのは『帝国の逆襲』だ。
ファージング・サーガの三作目は見事にサーガとしての結末を付けたけれども、でも、あの結末はやはり英国ならではというべき結末で、卑怯といえば卑怯な決着の付け方だと思う。だから三部作として評価するよりも二作目だけを評価したいのだ。
上田早夕里の『華竜の宮』は今さらここで書く必要もないだろう。しかし、初読時の興奮から冷めてみると、魚舟・獣舟という設定を使わなくてもよかったのではないかと思う。無論、この設定を使わなければ意味が無いというのもわかるが、魚舟・獣舟を成立させるための手順が発達しすぎた科学、つまり魔法のようにしか思えない。もっともそれをいうならば、人工知性体や人工知性体のネットワーク網に関しても、水没した世界において作り出せるだけの力、そして維持できるだけの力があったのか、ということを考えると魔法になってしまうのだが、こういった部分が邪魔に思えてしまったのは『日本沈没』や『消滅の光輪』に通ずる物語の部分がもの凄く面白かったせいだ。
他にも印象に残ったSF小説はあるのだが、『華竜の宮』に関して書いてしまうと、どれも色あせてしまう。
不満を書きながらも、2010年のベストSFは『華竜の宮』だ。
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