ミステリ小説について振り返ってみる。
ここ数年ミステリよりもSFの方に比重が傾いているせいか、あまり読んでいない。
少ない読書量の中で印象に残っているとすれば、軒上泊の『君が殺された街』が真っ先に上がる。
残念ながら新作ではない。『べっぴんの町』から始まる軒上泊の素人探偵シリーズ、多分シリーズ名は付いていなかっただろう、の今のところ最新作。といっても1995年の作品だ。唯一文庫化されていなかった本なので今まで未読だった。
話として面白いかどうかなどは問題ではない、軒上泊の世界が好きだったのだ。前作を読んだのはおそらく1987年。過去の作品を読み返すといった復習もせずに読み始めて大丈夫なのかという不安はあったが、多少のひっかかりはあったもののすぐに軒上泊の世界に入り込むことができた。今回は、これまで舞台だった神戸から沖縄へと移る。主人公にとっても転換期を迎えそうな感じの本作をもってこのシリーズが止まってしまったのは実に惜しい。
久々といえば田代裕彦もひさびさに新刊を出した。といっても前作は2009年2月だったからそれほどひさびさでもないのかもしれない。田代裕彦の新作『痕跡師の憂鬱』は魔法の世界におけるミステリだ。
ファンタジーの世界を描いてもミステリにしてしまうのは田代裕彦らしい。これ一作だけで終わってしまうのかと思っていたら続きがでたのに驚いた。このままシリーズ化して欲しい。
魔法とミステリといえば、米澤穂信の『折れた竜骨』も魔法とミステリの物語だ。
作者は演繹法による推理の方がかっこいいと思っているようだが、わたしは消去法による推理の方が好きだ。
沢山の容疑者を消去法によって容疑から外し、たった一人の犯人に行き着く過程は読んでいてぞくぞくとするのだ。
梓崎優の『叫びと祈り』はチェスタトンというよりもどちらかというとT・S・ストリブリングのポジオリ教授シリーズを思い出してしまった。異文化を題材としているせいだろう。「凍れるルーシー」を読んで、京極夏彦のとある作品を思い出してしまった。
『[映]アムリタ』の野崎まどの三作目『死なない生徒殺人事件~識別組子とさまよえる不死~』
ミステリとしてみた場合、少し詰めが甘い部分があったり、もう少しうまく真相を隠しておいてもらいたかったと思う部分もあるけれども、SFとしてみた場合、「四角形と五角形の間の図形」という概念や不死という存在のあり方といった部分が素晴らしく面白い。ではSFとして読んだ方がいいのかというと、やはりミステリとして読んだ方が楽しめる気がする。
コメント