『正義のみかた』本多孝好
『屋上ミサイル』山下貴光
『百瀬、こっちを向いて』中田永一
読み終えて、元気が出た三冊。
本多孝好はそれほど読んでいないのだけれど、既読の本と比べると驚くぐらいにさわやかで、軽やか。だからといって軽いばかりの話ではなく、かなり重苦しい部分もあるけれども、それでも、主人公の選んだ楽ではない道のりへの結論には共感できる。
『屋上ミサイル』は巷で言われているようにご都合主義が目立つけれども、それに対して目をつぶってしまえば問題なく読むことが出来る。これがデビュー作であることを考えれば、あまり文句を言ってもしかたないだろう。出だしの勢いに乗ってしまえば後は最後まで楽しむことができた。
中田永一は覆面作家。覆面作家といいながら正体はほぼ判明してしている。わたしはそちらの名義の本はほとんど読んでいないので、先に中田永一名義の本を読んでしまっていいのだろうかという気持ちもあったけれども、別名義で書いている以上、こちらだけを読んでもなんの問題もないはずだ。騙されたと思って読んでみたら、あまりの面白さに驚いてしまった。この本に関しては騙されたと思って読んでみてびっくりするのが一番いいのかも知れない。
『民宿雪国』樋口毅宏
まったくもってノーチェックだった。
第一章の見出しが「吉良が来た後」だが、英題がそのとなりに続き、その英題が「Key Largo」である。これだけでワクワクしてくる。
吉良という男が亡くなった友人の父親を訪ねてその父親が経営する雪国という名の民宿へやって来るところから物語は始まる。そして、昭和という時代の偽史という形をとりながらあらゆる手法を駆使し、作者は予想もつかない場所へと読み手を引きずりまわしてしまうのだ。予想もつかない場所へと連れて行くのではない、引きずり回されるのだ。
『民宿雪国』という木訥そうな題名に騙されてはいけない。
『ぼくらは海へ』那須正幹
<それいけズッコケ三人組>シリーズの那須正幹の作品だが、新作ではない。どういう理由かはわからないが突然、文春文庫で復刊した。
内容は、<それいけズッコケ三人組>シリーズの、いわば、白・那須正幹ではなく『The End of the World』の黒・那須正幹のほうである。
いろいろな悩みを抱えた少年たちが、廃材を利用し、力を合わせて舟を作る。海へ繰り出し冒険をするために。
とそこまではいい。
しかし、那須正幹は安易な救いの物語など書かなかったのだ。あくまで厳しい現実を突きつけ、そして現実に目を背けることしか出来なかった者にはそれ相応の現実的な結末を与えるのだった。
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