『真夏の日の夢』静月遠火

メディアワークス文庫は時折気になる本が出るのだけれども、実際に読むかどうかというとそこまで踏ん切りがつかない場合が多い。しかし、この本はネット上でなかなか評判が良かったので読んでみることにした。
孤島とか、雪で孤立した山荘とかではなく、都会の中で外部との連絡が取れなくなった屋敷で起こる事件。
もっとも屋敷といっても三階建て八坪の廃屋寸前のアパートであり、外部と連絡が取れないというのは、一定期間外部との連絡を絶ったらどんな影響が出るのかという心理学部の教授が行う実験に参加したしたためだ。
作者があとがきで、見取り図のあるミステリが好きだと書いているわりに、見取り図が無いのが玉に瑕だが、見取り図があるミステリにおいて見取り図が役に立つ事などまれなので、まあ無くても構わないといえば構わない。
閉ざされた山荘ものとしては、おそらくミステリ史上最小の閉ざされた屋敷だろうということで基本設定がかなり面白いのだが、それが謎とうまく結びついているかというとちょっとぎこちない。むしろ、新本格ミステリでよく使われるあるトリックの新機軸が現れたのに驚いた。あまりにも衝撃的だったので、事件の解明などどうでも良くなってしまったくらいだ。ちょっと年齢層を選ぶ部分もあるし、応用範囲は狭いだろうけれども、こういう仕掛けを作ることが出来るほど歴史があるということは振り返れば自明のことだったが、目から鱗が落ちる思いだった。

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