太平洋戦争開戦前夜、英国本土への攻撃を目論むドイツは自国の戦闘機では航続距離と英国の戦闘機の戦闘力の問題で作戦が成功しないことを理解していた。
かといって新たな戦闘機の開発には時間がかかる。そこで同盟国である日本が秘密裏に開発した零式戦闘機をライセンス生産することを目論む。
しかし、零式戦闘機が本当に使い物になるのか試験飛行が必要であり、その為には実機をドイツまで輸送しなければならない。
はたして、日本からドイツまで、零式戦闘機を輸送することができるのだろうか。
という物語なのだが、太平洋戦争開戦前夜のドイツ国内で撮影されたとしか考えられない一枚の写真に零式戦闘機が写っていたという出来事から物語は始まる。
一枚の写真から、歴史の間に埋もれてしまった出来事が浮かび上がってくるわけだが、この写真が正しいということが前提条件なので、零式戦闘機がドイツに到達することはわかりきってしまっている。
作戦そのものは成功するのは確実なので、成功するかどうかというドキドキ感は乏しい。さらに、実際にドイツへと飛び立つのが物語の三分の二を過ぎてからで、なおかつ、任務はドイツへの輸送であり、空中戦は出来るだけ避けなければならないので、飛んでからの盛り上がりにも欠けてしまう。
ハラハラドキドキの冒険小説を期待すると、盛り上がりに欠けた展開に意表をつかれてしまうのだが、しかし、それでも、読んでいる間はそんなことなど気にならないくらい面白い。読み終えてから、盛り上がりに欠けたなあと思ってしまうだけだ。歴史秘話という体裁であることを考えると、無理して盛り上がりを作るのを避けたとも考えられる。
しかし、盛り上がるような空中戦はないけれども、インメルマン・ターンが登場する。零式戦闘機をドイツまで飛ばす主人公はこのインメルマン・ターンを完璧に使いこなすことの出来る優秀なパイロットなのだ。そう、航空機のマニューバが登場するだけでわたしは十分満足する事が出来た。
さて次は『エトロフ発緊急電』だ。
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