『海辺へ行く道 夏』三好銀

もの凄く不思議な漫画だった。
もの凄く静かで、何かとてつもない恐ろしいことが起こっているような予兆を感じさせながらも、その恐ろしさはあくまで断片的であり、明確な形として物語の表面には現れない。
そこに描かれるのはたわいもない日常であり、夏休みの自由研究をする高校生の話のだったり、落し物を引き取りに病院まで行って帰るだけの話だったり、主婦に包丁を売りつける詐欺師の話だったり、まあ最後のやつは日常生活の話とはちょっと違うかも知れないが、特別な事件が起こるわけではない。
まどの一哉の『洞窟ゲーム』にも似た雰囲気があるのだが、まどの一哉のように狂気が見えてこない。何かが変で、それをさほど変と思わない登場人物も変で、言い換えれば、地球人とは思考回路の異なる異星人が地球人の扮装をして地球人っぽい生活をしようとしている風景を覗かせられているといった方がいいだろうか。
この漫画を読む読者は彼らの生活を無理矢理見せられているのだ。
見せられるといえば三好銀が見せる構図も不安感をかき立てさせられる。
背景にしろ、構図にしろ、どこか変なのだ。
パースもろくに取れない下手な絵だと言ってしまえば簡単なのだが、下手だったらこうも変に描くことなどできやしないだろう。意図的に不安感を高めさせようとしているとしかいいようがない。
などと書きながらも、こんな認識で大丈夫なのか不安になってくる。ひょっとしたらわたしはこの漫画について語る言葉を持ち得ないのではないだろうか。

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