三部作の最後の作品。
それにしてもこの三部作、尻上がり的に面白くなっている。
一作目は零戦をドイツまで飛ばすというなかなか奇想度の高い話で、これさえ読んでおけば残りは読まなくってもいいじゃないかと思っていたが、本来の目的は二作目だったので、二作目も引き続いて読むことにしたわけだが、二作目は一作目以上に面白かった。
で、三作目はというと太平洋戦争末期、敗戦はもはや決定的でありながらも徹底抗戦し続ける日本の行方を左右する重要な情報を日本へと伝えようとスウェーデンのストックホルムから日本に目指して向かう密使の物語ということで、前作にくらべると奇想度は低く、ノンフィクションドキュメンタリーといってしまっても不思議ではない展開と語りなのだが、これがべらぼうに面白い。
一頁目で既に、密使が任務を遂行する事ができたのかは明らかにされてしまっているので、ハラハラドキドキというのは無いのではないかとも思えるのだが、そのあたりは想定内と、余裕の構えで作者は物語を紡ぐ。
前作に登場し活躍した人物が所々で登場し、今回も活躍するあたりも心憎いし、前作があるが故にこの物語の面白さが増しているともいえる。
奇想度が低いといったものの、三作を通して活躍した人物が終盤になってある事柄に対して苦渋の結果、事実をねじ曲げて嘘をつく。もちろん彼の行った行為が歴史を変えたというわけではないが、佐々木譲はもの凄く大胆な嘘をこの物語に忍ばせたものだと、ある種の感動と感銘を受けた。
本来は、歴史の上では存在しないストックホルムからの密使の物語で、密使の存在以外の部分は史実であるのだが、佐々木譲が終盤に紛れ込ませた嘘によって、今自分が存在している世界はこの嘘によって変えられた平行世界なのではないだろうかという目眩を一瞬、覚えてしまった。
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