『香菜里屋を知っていますか』北森鴻

北森鴻が亡くなってもう一年以上が経ったのか。
さりげない形でおいしそうな料理を話の中に盛り込むことのできる希有な作家だった。
しかしわたしは、面白そうな作品だけをつまむ程度に読んでいただけなので、熱心な北森鴻の読者ではなかったし、シリーズ物なのでその後も惰性で読んでいる作品もあったりした。<冬狐堂>シリーズがそうだった。<香菜里屋>シリーズも実はそれほど面白いとは思わず、惰性で読んでいた。まあ、どちらのシリーズも一作目は面白かったのでそのまま読み続けたわけで、いつかは一作目以上の面白い話を書いてくれるだろうと期待をし続けていたのだ。
そして、続けようと思えば多分いくらでも続けることができただろうけれども、北森鴻は<香菜里屋>シリーズに終わりをつけた。それは北森鴻の作家としての誠実さなんじゃないかと思っている。始まった物語はいつかは終わらなければいけない。読み手としては、好きなシリーズはいつまでも読み続けていたいという気持ちはあるだろうけれど、永遠に終わらない物語など存在しない。とくに、物語の中で時間が経過している場合はなおさらだ。
最終話で他のシリーズキャラクターをめいっぱい登場させたのはちょっとやりすぎかなと思わなくもないけれども、やはりそこは作者のサービス精神の表れだろう。
文庫化にあたって、未完の『双獣記』が収録されているが、まだまだ序盤ながらこれが面白い。北森鴻による伝奇小説は読んでみたかった。

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