子供向けに書かれた戦争を扱った小説というのは沢山あるが、那須正幹が書いたこの本はちょっと変わっている。SF的な趣向を取り入れ、太平洋戦争で日本が勝った世界を扱っているのだ。
主人公達二人組は小学校の教室の屋根裏を探検しているうちに平行世界へとたどり着いてしまう。そこは太平洋戦争で日本が勝った世界で、今でも日本軍は南方で戦争をしており軍事国家と化している。
この世界には主人公達の家族も存在しているが、空襲で亡くなったはずの祖母は空襲そのものが無かったために生きていたり、父親が兵士として南方戦線で戦っていたりと微妙に異なっているし、小学校の教室には軍人の写真が飾られていたり、軍事教習があったりする。
歴史のターニングポイントとなった原因の部分や、30年以上も戦争が続いている部分など、厳密に考えるといい加減な設定である部分もあるのだけれども、そこはこの小説を歴史改編小説として読もうとした場合の問題点であって、那須正幹のねらいはそんなところには無い。
那須正幹の鋭いところは、そうした設定下において発生した軍事国家としての日本と現実の日本との差異を主人公達に考えさせた部分だ。
主人公達は、軍隊が存在して、そして日本から離れた場所で戦争が行われているこの世界を目の当たりにして、自分たちの世界でも自衛隊があって戦車や戦闘機が存在する、自衛隊は戦争をしていないけれども、それは自分たちが知らないだけで、本当は何処かの国で戦争をしていたとしたらどうなんだろうと考える。自分たちが知らないだけで、本当は自分たちの世界もこの世界と同じなんじゃないかと考えるのだ。
闇雲に戦争というものを否定するわけではなく、自分たちで考え、そして行動しようとする。馬鹿馬鹿しいと思える考えは馬鹿馬鹿しいと言い、おかしいと思う考えはおかしいと言う。
主人公達は終盤で、元の世界へと帰るすべを失い、この世界で生きていかなければいけなくなる。読み手側としてはなんとも残酷な結末になってしまうのだが、それでも主人公達はこの世界で生きていこうとする。自分たちの世界がどんなに酷い世界であろうとも、それでもその世界で生きていかなければいけないのはどの世界でも変わりはない。
那須正幹は、もう一つの世界を描きながら同時にこの世界を描いていたのだ。
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