『ムーミン谷の彗星』トーベ・ヤンソン

講談社文庫からムーミンシリーズの小説が新装版で出た。ちょうどいい機会なのでムーミンシリーズの小説を一気に読んでしまおうと思った。
最初は『ムーミン谷の彗星』だ。この話は既読だったけれども、読み直してみてもやっぱりおもしろかった。
冒頭から不安が渦巻いている。ムーミンパパが作った橋のせいで家を半分壊され、残りの半分は川の水で流されてしまい家を失ったじゃこうねずみがムーミントロールの家にやって来てムーミントロールに「彗星がきて、この世は滅びる」など子供向けの童話にあるまじきことを言う。案の定、ムーミントロールは不安になり、ムーミンママから彗星のことをもっとよく知れば怖くなくなるだろうと言われ友達のスニフと彗星のことを知るために天文台へと向かう。
途中でスナフキンと知り合い行動を共にし、食中植物に襲われたスノークのお嬢さんを助けたりと冒険をするのだが、そういった表層的な物語の部分とは裏腹にムーミントロールを筆頭として彼らの言動の一つ一つが素晴らしい。
スナフキンが、含蓄の有るような無いようなセリフを物語のあちらこちらでストレートに打ち込んで来るのはもちろんだが、ムーミントロールも負けじとボディブローのように素晴らしいセリフを吐く。
ムーミントロールに助けられたことでムーミントロールを好きになったスノークのおじょうさんは、大だこに襲われそうになったムーミントロールを助ける。そして「わたしね、ムーミンのこと、一日に何度も何度も、大ダコから助けてあげたい!」とムーミントロールに言う。健気なセリフでもあるのだがトーベ・ヤンソンの素晴らしいところはスノークのおじょうさんのこのセリフに対するムーミントロールの切り返しの言葉だ。
「いやだよ、そんなの、きみは欲が深すぎるよ」
なんだかもの凄くすがすがしい。
トーベ・ヤンソンの素晴らしさは他にもある。
天文台からの帰り道、彗星は4日後にムーミン谷に衝突する。はやく家に帰らなければいけないのだが道のりは遠い。そんな帰り道のダンスパーティの中、歌をうたってとリクエストされたスナフキンがうたった歌がこれだ。
こまった こまった
夜は つめたい
ときは 五時
おまえは ひとり さまよう
つかれた足を ひきずって
けれども 家は見つからない
出版当初、この本があまり評価されなかった理由もなんとなくわかる。多分、子供には早すぎたのだ。

コメント

  1. ムームー より:

    ムーミンの名にひかれ、ふらっと立ち寄りました。
    「ムーミン谷の彗星」名作ですよね。映画版も素敵でした。
    かなり大人になってからみたのですが、子供のころに感じるものと違う気がしました。
    なんだかムーミンのお話って、哲学だと思いませんか。
    素敵な文章を読むことができて、うれしかったので、コメントをしました。
    ありがとう。
    ムームーより。

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