作者の弁によれば、リリカルな作品を集めた短編集ということなのだが、今回の目玉でもある「もうひとつの転校生」はちょっと違うだろうと物言いをしたい。
大林宣彦監督の映画『転校生』に対するとりみきの返歌ともいえるのだが、終盤まではリリカルだが結末はホラーだ。
このまま、看板に偽りあり的な話が続いていたらどうしようか、まあそうだったらそうで別な楽しみ方ができるなあと思っていたら、残りの作品は看板どおりだったので、安心する反面ちょっと残念な気もした。
「もうひとつの転校生」と「望楼」以外は前に読んだことがあったので、新鮮さというのは感じられなかったけれど、既読ゆえの懐かしさというものがあって、昔読んだときの感動と、その当時の自分と、もろもろ合わせて多重的に懐かしさというものを感じることができた。
歳をとることでこういうふうに物語を感じ取ることができるというのは驚きだった。
歳をとるということ悪いことばかりではないということがまた一つ分かってよかったと思う。
コメント