『大正二十九年の乙女たち』牧野修

大正時代が十五年で終わらずにそのまま続いた世界で、舞台となる場所は大阪ならぬ逢阪。しかしそれが何か物語に密接に関係するのかといえば全く関係しない。歴史改変物語でもないし、SF的な設定があるわけでもない。もっとも何か見逃している部分があるかもしれないけれど、見逃していたとしても特に問題もないだろうと思う。
牧野修のこれまでの小説に比べると拍子抜けするくらいに爽やかで、青春物語であることに驚くのだが、二冊出てその後が止まってしまった<呪禁官>シリーズを彷彿させる。あるいは『水銀奇譚』か。
しかし、今回は少年が主役ではなく四人の少女が主役なのでなおさら爽やかで少女達が主人公である『アシャワンの乙女たち』のように特殊能力があるわけでもなく、あからさまな元ネタが見えるわけでもないので、牧野修がこんなものを書いてしまってもいいのだろうかと思ってしまうくらいだが、これはこれでいいんだろうなあ。むしろ牧野修の根底にあるのはいつの場合でもこういう王道的な物語なのかも知れない。
きれいにまとめてあるので、もの凄く王道的ともいえるのだが、王道であればエピローグでその後の主人公達を描くはずなのだが、それをわざと描かなかったりするあたりは作者の照れ隠しみたいなようにもみえる。

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