光文社文庫の『十三角関係』は山田風太郎が生み出した探偵、茨木歓喜が登場する話を集めた本だ。
ただ、残念なことに光文社文庫版『十三角関係』は二種類存在する。一つは「帰去来殺人事件」が収録されたもの、もう一つは「帰去来殺人事件」が省かれたもの。
初版が出てからしばらくして「帰去来殺人事件」に差別用語があるとして、第二版と第三版は「帰去来殺人事件」が出版社側の一方的な判断で省かれてしまった。しかしその後、この全集企画者である日下三蔵氏の働きかけで第四版から元通りになったという経緯がある。
わたしが持っているのは第三版である。
もともとこの本は、出版芸術社から出ていた『帰去来殺人事件』と『十三角関係』をあわせたもので、出版芸術社の『帰去来殺人事件』は既に持っており、今回の目当ては『十三角関係』の方だけだったので、物珍しさも合い重なって第三版を買ったのだ。将来的にレアアイテムになるかどうかは定かではない。たぶん、そんなことなど無いだろう。
で、そういった経緯がありながらも長いこと積読のままだった。少し前に『妖異金瓶梅』を読み終えたのでついでにこちらも消化してしまおうと思い、ようやく読むことにした。最近、こんなことが多いなあと思いつつだが……
「十三角関係」は精神病院が出てくるあたりは読んでいてちょっと辛くなるのだがそれはあくまで個人レベルの問題だ。殺された被害者の事を調べれば調べるほどいい人であることがわかってくるあたりはアンドリュウ・ガーヴの『ヒルダよ眠れ』の逆バージョン的でそれが殺害動機を際立たせる結果となっている。
しかし茨木歓喜ものであればベストは「帰去来殺人事件」なので、光文社文庫の『十三角関係』を買う人は買う前に目次を見て「帰去来殺人事件」が収録されているかどうかを確認してから買った方がいいだろう。
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