わたしが初めて読んだ堀江敏幸の小説は『雪沼とその周辺』だった。
そこに書かれたひとつひとつの言葉は読むたびに私の体の中にするりと入り、そして静かに消えていく。そんなちょっと不思議な感覚を得る小説だった。
小説だけではなく、堀江敏幸が書いたエッセイも似たような感じの文章だ。以来、わたしは堀江敏幸のとりこになった。
そして、今回は『雪沼とその周辺』に連なる作品集ということだったのでなおさら楽しみだった。
連なるといっても、ごく一部の話の中で『雪沼とその周辺』で登場した人物について触れられている程度であり、密接な関係も見あたらないうえに、個々の話の舞台が果たして同一であるのかすらも怪しい部分もあるしで、背景となる部分に関してはそれほど気にする必要もないのだろう。
逆に、堀江敏幸はそういった個々の繋がりをわざとはぐらかしているような節もある。
ここの収められた短編も、思わせぶりなところを見せながらそれらについて明確な答えを出さずに物語を終わらせてしまっている。『雪沼とその周辺』では感じさせなかったある種の居心地の悪さという物がある。特に今回は子供の物語が多く、そして何らかの喪失感が根底に流れているだけにそう思えてしまう。
言葉がするりと入り込み、そして静かに消えていく。その消えていくことの喪失感が不思議な余韻を醸し出す。
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