講談社文庫でムーミンフェアが始まって、その中のプレゼントの一つである扇子がほしくなったのだが、期間中に読みたい新刊だけを買っても応募点数が貯まるかどうか微妙なところなので、ムーミンフェアの対象となっている講談社文庫を買い始める。
乃南アサの『鍵』もその一冊だ。
今まで乃南アサの小説は一冊も読んでいない。ちょっと自分の守備範囲から外れていそうな作品ばかりだったので読まずに来てしまっていたのだが、『鍵』はムーミンフェアの対象の一冊で、なおかつ手頃な厚さの本だったので手に取ってみたのだった。
裏表紙のあらすじを読む限りでは悪くはない。解説をさらりと流し読みしてみると、最後に仁木悦子の仁木兄妹シリーズについて触れられている。なんとなくだが、乃南アサを読まずにいたのはちょっともったいなかったんじゃないかという気持ちがしてきたのでさっそく読んでみることにした。
仁木兄妹は最初から仲が良いのだが、この本の西兄妹の仲はぎこちない。長女、長男、次女の三人兄妹なのだが物語は父親の葬式で始まる。次女は聴覚障害を持って生まれてきたために母親は必然的に次女を優先させてしまっていた。長男はそういう情況であることを理解しながらも母親を独り占めしてしまった次女にわだかまりがでてきてしまう。そして父親の死によって兄妹の仲はぎこちなくなってしまうのだ。
そんな状況下で兄妹は事件を解決する事ができるのだろうかと思いつつ読み進めていくと、まあなんとなく事件は解決してしまう。仁木悦子の書くような本格ミステリではなかったのだ。
とはいうものの、確かに事件そのものはミステリ的にはそれほどたいした物ではないけれども、兄妹の成長物語という視点でみればそんなに悪くはない話だ。
事件の解決よりもぎくしゃくした兄妹の仲が元に戻る過程の方がおもしろいし、読んでいてそちらの方が気になってくる。いい本に出会えて良かった。
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