『やさぐれ 品川宿悪人往来』犬飼六岐

時代小説は滅多に読まない。あまり読書の範囲を広げすぎると積読が増えすぎて収集がつかなくなってしまうというのが理由の一つだ。
そんなわけだから、あえて時代小説には注目しないようにしているけれども、たまに気になる作家が出てきたりするので困る。
犬飼六岐はその一人。
「犬」という文字が含まれていて『南総里見八犬伝』を彷彿させたので気になったのが始まりだけれども、このペンネームの由来が、ロッキーという名前の犬を飼っているからだということを知って、そのネーミングセンスに負けてしまった。
さて今回は、品川の宿場町を舞台に、些細な出来事がやがて町同士の抗争に発展する青春ノワールということで、青春とノワールが共存できるのか気になった。
ノワールというよりもピカレスクの方が近かったかもしれない。
主人公は盃をもらっていない三下。とりたてて腕っ節が強いわけでもなく、頭が良いわけでもないのでちょっと影が薄い。まあそのぐらいのほうがピカレスクとしては丁度いいのだけれども、誤解と勘違いで用心棒の先生にさせられてしまう、やまたの彦六の方がキャラクターが立っているので分が悪い。
彦六先生、しらふの時は小心者で、会話も満足にできないくらいなのに、酔っぱらうと饒舌になりやたらと架空の武勇伝をしゃべりまくって自分自身を自慢し、そしてなぜか酔ったときだけ腕が立つ。腕が立つだけに周りの人間は、普段の言動と素行にさえも達人の幻影を勝手に見いだしてしまって、さすがは先生だとやたらと感心する。そんなギャップが町同士の血で血を洗う抗争と上手い具合にかみ合って爽やかな余韻を残す物語となっている。

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