『クロノリス 時の碑』ロバート・C・ウィルスン

未来から飛んできた巨大な塔といえば今日泊亜蘭の『光の塔』を連想してしまうが、今日泊亜蘭の主人公は熱血漢であるのに対してロバート・チャールズ・ウィルスンの主人公はそれとは正反対に近い。
ガジェットそのものは派手だけれども、物語の展開は主人公の性格と同じく地味というかごく普通の人間ドラマを見せられている感覚に近い。しかし、登場人物達が普通の考え方の持ち主かといえばそうでもなく、普通の人々からどこか微妙にずれた人たちしか登場しない。まるで病めるアメリカを表しているかのようだ。
主人公はたまたま未来から飛来したクロノリスに関わり合いをもってしまうけれども、主人公自身はクロノリスの謎を解こうとなどとは思ってはなく、あくまで金のためだったりするので、物語の展開もそれにあわせて進む。よって、積極的な謎解きとか明確な解答というのは存在しない。
主人公が知った事柄だけが明示されるに過ぎないので、どういうことだったのかは読者が見つけるしかない。まあそれほど難解な結末ではないけれども、やがて書かれる『時間封鎖』『無限記憶』に続く完結編がこんな感じの展開だったらちょっと嫌だなあと思ってしまった。
主人公と主人公の両親をめぐる部分にずしりと来てしまった。父親から見た部分と子供から見た部分。父からすれば母親のありのままの姿は見せたくないだろうし、子供からすればそれでも自分の母親であるという気持ちはある。しかし、心の病を抱えた人間と向き合うということは生半可な気持ちのままでは絶望する。

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