刊行された当初、評判になったこの本が文庫化されたので読むことにした。文庫化されてみると280ページ程度の分量だったので薄さにちょっと驚いてしまった。
柳広司というと読めば面白い作品を書くけれども、いまひとつ一般受けしない、マニアック、というよりも一般人を寄せ付けない職人的な作品を書いているという印象があったけれども、この本を読んでみると、一般人を寄せ付けない要素が取り払われているなあと感じた、
結城中佐という存在が非常にわかりやすく、そしてかっこいい。そして収録された五つの話も作者の主義主張みたいなものがあるわけでもなくあくまでスパイという活動をゲームとして捉えてゲーム的な感覚で描いている。
その割り切り方は、今までの作者の作品と比べると物足りなさを感じてしまう部分も無きにしもあらずといったところだけれども、読んでいる間は面白く、読み終えて何も残らないさっぱり感は悪くはない。
文庫では佐藤優が解説を書いていて柳広司はインテリジェンス・ミステリという新しいジャンルを作り出したと言っているけれども、まあそれはご愛敬といったところか。
未読だった西村京太郎の『D機関情報』を読みたくなった。
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