『増補版 放浪探偵と七つの殺人』歌野晶午

『長い家の殺人』を読んだのはかなり昔のことなので、どんな話だったのか、探偵役の信濃譲二がどんな性格だったのかも忘れてしまった。覚えているのは推薦した島田荘司の言葉ほど凄くはなかったということだけだ。二作目も読まなかったので面白いとまでは思わなかったのだろう。
その次に歌野晶午の小説を読んだのは『死体を買う男』で、これは面白かったのだが、地味という印象だった。
そんなわけだから今の歌野晶午の活躍ぶりを見ると、ちょっと上から目線になってしまうかもしれないが、よくがんばってきたなあと思わざるを得ない。
今回、『増補版 放浪探偵と七つの殺人』と、お蔵入りになっていた一編があらたに収録され「増補版」となったので読んでみることにした。
最初の二編は、面白いけれども普通かなという印象だったのだけれども、その後が驚いた。犯人が誰かとかトリックは何かといった単純な謎解きではなく、謎解きの焦点がどこかひねってあるのだ。
どうひねってあるのかを書いてしまうとネタバレになってしまうので書くことができないのだが、「有罪としての不在」などは短編でありながら二度も「読者への挑戦」が挟み込まれ、そして恐ろしく手の込んだ作りになっている。事件の真相が明らかになったとき、おそろしく巧妙な作りに唖然としてしまった。
こんな話を書いてしまったら後が続かないんじゃないだろうかなどと心配してしまったが、しかし、私ごときが心配する必要もなく、今も歌野晶午は走り続けているのだ。

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